◆相続財産を売却した場合の取得費の特例
仮例 市街地農地をたくさん所有して農業経営を行っていたAさんの息子さんBさんは相続なんて我が家にはまだまだ先のことと思っていたら元気でかくしゃくとしていたAさんが突然の脳梗塞で敢無くあの世に召されてしまいました。悲しみのどん底からようやく立ち直ったところ,今度は追い討ちをかけるかのごとく所轄の税務署より相続税納入のお知らせが届いてまたまたショック。その金額もざーつと計算して普通のサラリーマンが一生働いても残せないような莫大な金額とあってはこのところ夜も眠れない日々が続いている毎日です。隣組の会合で小耳にした「相続が発生した後に土地を売ると税金がただになる」との話,早合点して相続税までただになると思いこんだBさんは一安心。しかし,チョット待ってください。早合点は禁物です。
税金の一括納入か,延納か,物納かいろいろと思案に暮れているBさん。延納するにしても亡きオヤジが相続税対策として残してくれたアパートから入ってくる現金収入も年間数百万円ぐらいでは焼け石に水。やはり土地を売らなくてはいけないのでしょうか。
相続財産である土地等の一部を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上「その者が相続したすべての土地等に対応する相続税相当額」を取得費に加算する特例
特例の対象となる譲渡の期間
取得費加算額の算式
A 取得費に加算する相続税額
B 相続税額
C 課税価格の計算の基礎とされたすべての土地等の価格
D その者の相続税額に係る課税価格
C
A=B×――――
D
課税価格の計算上の基礎とされたすべての土地等の価格
取得費に加算する相続税額=相続税額×―――――――――――――――――――――――――
その者の相続税額に係る課税価格
仮例 相続税が2000万円として
相続不動産 A地 2000万円(相続税評価額) 3000万円で売却
〃 B地 3000万円( 〃 )
〃 C地 4000万円( 〃 )
現金その他 1000万円
計 1億円
A地+B地+C地=9000万円 としたとき
特例適用のないケースでの譲渡所得税額
売却価格 3000万円
〔3000万円−(150万+96万)〕×26%=716万円 取得価格 150万円
手数料 96万円
相続税額 2000万円
譲渡所得税 716万円
税額計 2716万円
取得費加算特例適用のあるケースでの譲渡所得税額(改正後)
〔3000万−(150万+1800万+96万) 〕×26%=248万円
売却価格 3000万円
9000万 取得価格 1950万円
A=2000万× ――――=1800万 手数料 96万円
1億円
相続税額 2000万円
譲渡所得税 248万円
税額計 2248万円
注 改正後は売却したA地だけでなく相続したすべての土地の相続税手評価額を分子であるCにすることが
できることとなった。
取得費加算特例適用のあるケースでの譲渡所得税額(改正前)
売却価格 3000万円
〔3000万−(150万+400万+96万)〕×26%=612万円 取得価格 550万円
手数料 96万円
2000万
A=2000万× ――――=400万円 相続税額 2000万円
1億円 譲渡所得税 612万円
税額計 2612万円
改正前は売却したA地の相続税評価額だけしか分子であるCにすることができなかった
上記の仮例でわかるように被相続人が亡くなった後、つまり正確にいえば相続税の申告書の提出期限(通常被相続人が亡くなった日から10ケ月後)を起算日として3年以内に相続した不動産を売却した場合,相続財産の取得価格は売却価格の5%(概算価格)に取得費に加算される相続税額をプラスすることによつて、つまり取得価格(原価みたいなもの)が増えるため譲渡益が少なくなり、ひいては譲渡所得税額が少なくなるという仕組みになっています。Bさんが期待したような相続税額が少なくなるわけではありません。