●不動産ミニバブルの原因を作っている?「不動産一括査定」

2020年の東京オリンピツクを控えた日本の不動産事情についていろいろな角度から意見が多数出ていることは、インターネットに普段から目を通している方にとってはよくあるテーマの一つであろう。

 東京オリンピックを境にして、日本の不動産の価格が下降展開を始めてズルズルと下がり続けていくのではなかろうかと「悲観的な予測?」をしている論調は多くある。例えば、令和になった2019年5月以前にも、数多くの個人の不動産投資家にアパートやマンション購入資金を融資していたスルカ゛銀行の不正融資問題が明るみにでて、素人のサラリーマン不動産投資家の中に空家が増えたことにより銀行への返済が滞り始めた方が出てきたというのもその一端であろう。他方、大手企業の資金調達が銀行等からの間接融資に頼らずに、株式市場等から直接的に資金を集める直接金融にシフトしているという意見が多くある現状では、地方の金融機関が融資先を増やしていくには元気のある中小企業に対する融資を増やしたり、建築不動産に対する不動産融資を増加させていくのも無理からぬ面とも云える。

 不動産取引を30年も長くやっていると゛バブルの足音゛みたいなものを肌で感じることが最近はよくある。東京や大阪などに比べれば熊本みたいな地方都市では新聞やテレビ、さらにはインターネットの論調自体にミニバブル的なものが現れるということはまだまだ感じ取ることができない状況ではあるが、まだまだ地価に対する割安感のある熊本市周辺の新興住宅街等において新しい土地開発がどんどんと為されている状況等を見ていると「ミニバブル」の状況なのかなと思うこともしばしばある昨今である。例えば23年前に宅地開発された郊外の分譲宅地が坪1415万円程であったのが、僅か23年の間に坪1920万円もの価格が付けられて売りに出されたりするケースに出くわすと、順調に売れる売れないかはさておきバブルをどつと肌で感じるざるを得ない。開発に適するような大きな土地を所有している農家の方等と土地の価格交渉をしている時などは特にそういう「感情」を抱かざるを得ない。23年前の農地の売値が坪56万円程であったのが、周辺の最近の分譲宅地の価格が高騰している状況を理由に優に坪23万円程高く買取って欲しいと云われる状況に出くわしたりすると゛ああ熊本もバブル化しているのかな!゛と深く溜息をつかざるを得ない状況にもなってしまう。

 一方、不動産の中で個人の方達の唯一の不動産と云って良い゛持ち家゛(中古住宅)の状況をお伝えしたいと思う。個人の持ち家が何らかの理由で不動産の売却市場に出回るようになるまでには、それなりに紆余曲折があるわけだが不動産のポータルサイトによく目を通していると、売りに出されている物件の数や売出価格の変化に気づくことがある。中古住宅の流通についてはこれまでの売買仲介の在り方が、相変わらず「現状有姿売買」という方法でなされていた不動産流通の゛悪しき慣習゛が長く存在していたため、中古住宅の流通の世界はブラック市場とまで云われていた経緯があります。中古住宅を仲介で購入するということは、下手をすると「とんでもない物件」をつかまされるかもしれないという不安が現実のものになっていたのが「現状有姿売買」に隠されていた現実だつたのです。お金を支払いやっと手に入れた住宅に住み始めた途端に、雨漏りが出てくるわ、排水が頻繁に詰まる、家の傾きが肌で感じる以上にひどい数値が専門家の検査で明らかになるわで、契約前には予測もしなかったことが次々に出てくる等のことが現実に起こり得る可能性が大きく孕まれているのが「中古住宅売買」の実態であったからです。ですから、日本の住宅流通について国の統計資料をいくつか見てみると誰でも理解できるように、新築と中古の比率がこの間ずーつと新築のウェイトが圧倒的に多いことが一目瞭然で読み取れます。特別、日本に゛新築神話゛なるものがあるとも思えませんが、中古住宅の売買自体がとても安心して取引できるような状態ではなかったし、今でもまだそれほど安心できる状態ではないというのが本当の所ではないでしょうか。ですから圧倒的多数の人たちが゛新築゛に流れているというのが実態と云えそうです。

 しかし、最近の「空家問題」でも大きく取り上げられているように、年々爆発的に増え続けている空家の数を国も゛何とか対策を打たねばならない゛という焦りからか、数年前から゛中古住宅の流通゛の活性化対策なるものをどんどんと打ち出してきています。それは建物インスペクションということに代表される、中古住宅の徹底的な検査や流通を促すための保険制度の設立(中古住宅個人間売買瑕疵保険)、最近では「安心R住宅」等を通して、個人の方が安心して中古住宅を購入できるようなスキーム作りが整えられつつあります。確かにポータルサイトあたりに載っている中古物件の中には、以前と違って「建物検査済み」とか「売買瑕疵保険付」等の添書きのついたものが増えてきているのも事実です。広告に出てくる中古物件の殆どが「安心取引」できるようになれば日本の中古住宅の流通も飛躍的に増えていくのでしょうが、それには今以上の「取引の安心化」を図るような仕組みが充実していかなければまだまだ「新築神話」の壁は簡単には打ち破られることはないものと思います。

 冒頭に不動産のバブル化の兆候のことを述べましたが、中古住宅の流通においても限られた物件数とはいえその兆しはみられるようです。中古住宅の価格が数年前に比べれば少し高くなっているような感じがするからです。中古住宅の価格には土地の価格も当然含まれているわけですから、いや大半が土地の価格でしょうが土地の価格が毎年上昇傾向にある状況では建物を含めた中古住宅の価格が毎年上昇するのは理解できます。ただ熊本地方においても毎年発表される公的な地価公示価格や路線価格等を見る限りではそれほど激しい変動があっているわけでもないのに、中古住宅の価格が高くなっていると感じるのは売れてる売れてないに拘わらず、市場に出てくる中古住宅の価格が高い価格で出されている(建物価格で本来ゼロにも関わらず建物価格が数百万円も含まれている)ことに原因があるような感じが致します。適正な価格よりも高い価格で市場に中古住宅が出回り始めている原因はどこにあるのでしょうか?

 私が思うにはここ数年人気が出てきている「不動産の一括査定」なるサイトがインターネット上で数多く出回ってきていることに原因があるような気がします。インターネットを開けばヤフーのトツプページだけでなく、政治経済欄、芸能スポーツ欄、ニュース欄その他あらゆるページにこの「不動産の一括査定」へ入り込める広告ページが見受けられることです。「不動産の一括査定」を運営しているのは不動産会社ではなく、不動産会社を紹介するIT関連の広告会社中心の会社です。運営会社は不動産会社ではない為、顧客の所有する不動産の価格を査定するノウハウや技術等は持ち合わせていず、ただ単に査定を実際に行う複数の不動産会社をネットで紹介し繋ぐ役目をしている、まあ現代のデジタル不動産ブローカーみたいなものです。

ただ「不動産の一括査定」のやり方が、間違いなく売れるであろう適正な売却価格を査定するのであればそう問題もないのですが、各査定運営会社はヤフー等に支払わなければならない莫大な広告費の為(平成30年度の日本のネット広告費の総額はTVに迫っています!)、これまた莫大な利益を出さなければならないので「不動産の一括査定」会社同士の厳しい競争に打ち勝たなければならない為、自社加盟の不動産会社に査定を依頼すれば顧客の持つ中古住宅等が高く売却できるかのような期待を持たせて何とかして査定の申し込みをさせるような工夫をありとあらゆる形で行っているというのが現実です。

査定依頼をする不動産の所有者自体の査定の動機が何が何でも゛高く売りたい゛という強い意思があるため、「不動産の一括査定」サイトに有料登録している各不動産会社は「売れるであろう適正な売却査定価格」を出そうと意識していても、他のライバル不動産会社(普通は6社程に限られている)との競争に晒されている為必要以上に無意識下で「高い査定価格」を顧客に提示している感じがしてなりません。そのことがポータルサイト下の不動産流通市場に出てくる中古住宅等の価格が高く出てきているのではないかと感じることが最近は多くなりました。確かに数年前にも中古住宅の価格を検証していたときに、ときどき飛びぬけて高い価格で売りに出されていた物件にでくわしたことはよくありました。私も当時から、一括査定を行っていましたので依頼があった物件の査定をした後に媒介に至るケースもそうでないケースもいろいろありました。記憶に残っている物件ですが、査定依頼が「不動産の一括査定」サイトから舞い込んだので適正な査定価格を2000万円弱で行って査定書類を送付した後、例のごとく何の音沙汰もなかったため又高い査定価格を打ち出した他社が媒介を取ったのだろうと思っていたところ、売主の方から売却活動をしたいのであれば加わってもいいと連絡があり相談することになりました。媒介での売却価格は私が査定した価格2000万円弱で売却活動を行えるものと思っていたところ、売主の方は査定を行った各不動産会社の他にも自分が知っている不動産会社を加えると10社以上に声を掛けて、自分が考えている価格で販売活動を行ってもらえればと媒介契約を結ぶということでした。しかしその販売価格を聞いたときに思わず耳を疑ってしまいました。私の査定した価格の倍近くの価格で販売してくれというのが条件でした。そのため私はこの販売を断ったことがあります。それでも7〜8社の不動産会社がこの物件を相場からかけ離れた価格で販売を続けていましたが、2年近く経っても売れずに最後は私が最初に査定した価格である2000万円弱にまで価格が下がって販売を継続していたことを思い出します。これは決して極端なケースではなさそうです。これに似たような物件は私が取り扱っていない物件でも市場によく出回っているような気がします。そして時間の経過に比例してどんどん価格が下落していく中古住宅物件はポータルサイトあたりでよく見かけることです。

このケースは「不動産一括査定」で各不動産会社に査定をさせた後、売主の方が各社の査定金額を参考にしながら自らが売却価格設定のイニシァチブを握って、自らが決めた売却価格で販売をしてくれる不動産業者だけに販売を任せたケースと云えます。しかし、買主になる方達も不動産価格に対しては素人とはいえあまりにも相場よりも高い金額で市場に出ている中古住宅には気が付くものと思います。最終的に売却されたのか、中途で売却中止になったのかは把握していませんが、各不動産会社も2年もの間インターネットで広告を流し続けた結果が、売却中止になったのではまさに徒労としか云いようがありません。ミニバブルの兆候の一端を担ったという悪い意味での゛貢献゛をしたということでしょうか。

この「不動産一括査定」を介して査定依頼をしてくる不動産の所有者の特徴ですが、各不動産業者が打ち出して来る「査定額」をあまり信用していないような兆候が見受けられます。一般的には4〜6社の査定額が自分の元に届くことで、自分の所有する不動産の「相場感」を凡そ把握できるというメリットがある半面、査定額がどのようにして出されてきたかという大切な面には目が行っていないような人が多いように感じられます。私のように「一括査定競争原理」に敢えて惑わされずに、自分の考えた通りのやり方で査定を行うとどうしても低い査定額になり、それをそのまま「査定書」として届けるものですから過去に100件程の査定を行ったにも拘らず、「媒介」に至ったケース(しかも一般媒介)は僅か1〜2件で成約には未だ至っていないという極めて費用対効果の悪い(最近の若者語では「コスパが悪い」という短縮語が使われている)ことになってしまいます。以前はそれほどまでひどく感じることはなかったのですが、最近の「不動産一括査定」サイトのページの殆どが強調しているのが「高価格」オンリー戦略です。それは「不動産一括査定」サイトに査定を申し込めばあたかも゛自分の所有する不動産がすごく高い金額で売却できる゛かのような錯覚に陥らせるかのようなサイトになっているところです。「不動産一括査定」サイトが顧客の所有する不動産を゛買い取ってくれる゛わけではないということぐらいは理解しているのでしょうが、このサイトに査定依頼をすれば自分の不動産を高額で売却してくれるのではないかと過度に期待するような不動産所有者が余りにも多くいるのではないかと思ってしまいます。適正で間違いなく売れるであろう金額を提示してくる不動産業者にはお呼びがかかることはないのです。逆に゛何故私の不動産をこんなに安く査定したのか゛とキレられることもあるくらいです。なかには建物の検査を申し出ると「それは困る!」と頑なに検査を拒む方も多くおられます。何故かというと検査を受けることで建物の欠陥が露わになり、そのことで売価格が下がってしまうからでしょう。業者が間に入って売ってくれるのだから「黒も白に」してくれという全く自分本位な方も多くおられます。瑕疵の在る建物を売ったのは自分でなく、仲介の不動産業者なのだから買主に対する責任は不動産業者が負ってくれという顧客の方もおられます。ここまでくるとカスタマーズハラスメントの極みです。゛高く売れさえすればそれで良し!゛の下で、不動産市場に出てくる売中古住宅にはこのようなリスクが多く孕まれていると云ってもいいでしょう!

査定各社の中で幸いにも「媒介」が取れ、必要以上に高い売却価格で不動産市場に物件を出したとしても結果は゛値下げ゛゛値下げを継続的に行わないことには最終的に成約まで至らないということでは売主も不動産業者も疲れ果ててしまうのではないかと思います。