「不動産一括査定」のからくりとは?
●「不動産一括査定屋さん」とは?
●無料査定を標榜して人気が出てきているビジネスモデルとは?
●デジタル時代に現れた「不動産ブローカー」とは?
●不動産が高値で売れるという幻想とは?
●「机上査定」と「訪問査定」とは?
●クルマの査定と不動産の査定の根本的な違いとは?
●不動産ミニバブルの原因を作っている?「不動産一括査定」
●「不動産一括査定屋さん」とは?
世の中がまだアナログ時代であった2000年以前において、土地や建物の売却を考えている人が取るべき方法は自分の住まいの近くにある信頼のおける不動産業者や、地元の銀行、税理士さん、地域の有力者等に相談をしながら売却を進めていくというのが一般的であった。インターネットがまだ普及していない時代だったので今でこそパソコン等で県や国が毎年出している「地価公示価格」や、税務署の出す「路線価」等も閲覧することもできなかった。
そういう時代であったのでそのような紙の書類である刊行物を大切に保管し、それらに基づいてアドバイスできる業者等は顧客からの信頼を得ることができた時代でもあった。
情報革命ともいわれるインターネットが普及するにつれてホームページを所有する不動産業者も毎年、徐々にではあるが確実に増えてきて土地や建物の売却の方法もインターネットを介在させて行うことが多くなったというのが2000年以降のこの20年間の大まかな流れではないだろうか?
弊社がホームページを作って不動産の売買や賃貸等を行い始めたのは、ちょうど2000年頃だつたから約20年に亘って行っていることになる。不動産の事務所を開設して不動産の売買取引を始めたのが、平成のバブルがはじけて世の中も就職氷河期世代の大学生が、どれだけ就職活動を行っても採用してもらえないような平成の始めだったことを思い返すとき、不動産の取引もまだまだ人と人との繋がりで進捗していくという「牧歌的」な面を多く残していた時代でもあった。弊社の最初の10年間の不動産業務のやり方はそういうやり方だった。
そういう時代に先駆けてホームページを作成して不動産業務を行っていたため、今から思い返しても不動産を売却したいと考えている人に照準を定めたホームページという訳でも特別なかった。ホームページを作成するに当たって息子程の年齢の離れている電子工学系の大学の学部を出た知人から、HTMLとかプログラミング言語等のホームページを作成するに当たって必要な知識と技術を半日がかりで、それこそ付け焼刃的に習得して作ったホームページをサーバー上に公開したのがつい20年程前で懐かしく思い出される。もうその当時のホームページはすっかり形を変えて別のホームページになってはいるが・・・。
売却したい人、購入したい人、相談したい人、どういう人にでも対応できるホームページと云えば聞こえがいいが内実は焦点のはっきりしない漫然としたものだった。それでもまだまだホームページなるものを作成して業務活動を行っている業者の数不動産の業界でもほんの一握りであったため、インターネットを活用する層からは定期的に売却等の相談やメールが来ていた時代でもあった。このことは私が不動産業務を行っている熊本県に限らず、地方都市全般に当て嵌まることではないかと思う。
しかし、インターネットの急速な普及はパソコンだけでなく、持ち運べるパソコンとも云われるスマホを所有する人が爆発的に増えてくるにつれて状況は一変してきたと云ってもいい。ノートパソコンが出てきたとはいえ、パソコンはやはり事務所で椅子に座って操作するもの、それがスマホが出てきてからはいついかなる場所ででも操作が可能ということで、極端なことを云えばトイレの中ででもスマホを扱う人がいてそこから情報発信している人もいると聞き及んではまさにこのことを象徴している。それはトイレの中で新聞を広げて長時間トイレを独占していた超オールドな明治や大正世代の私の親の世代がいたということを聞き及んだとき、そう考えるとこのこともそう極端なことではないのかとも思える。
そういうデジタル的な環境の中で出てきたのが「不動産一括査定屋さん」といわれるサイトの登場である。温水洗浄便座に座ってスマホを操作し、査定を依頼する側の不動産のアバウトな内容が1分後には送信完了されて、その内容を受け取った「不動産一括査定屋さん」はそれをそのまま6社程の各不動産業者さんに流すことができるわけである。いかに便利な世の中になったものかというのが偽らざる実感である。
続きは●無料査定を標榜して人気が出てきている「不動産一括査定屋さん」のビジネスモデルとは
●無料査定を標榜して人気が出てきているビジネスモデルとは?
土地や建物を所有している人が将来的にももし売却しなければならない時が来たときに「自分の又は親が所有している不動産の価値はどれほどだろうか?」とはとても気になるところではある。ただまだ売却する考えもないし、またそういう時期が到来しているわけでもないのに敷居の高い不動産の会社なりに出向いて行って相談するのはとても気が引けるというのは正直なところでしょう。
「ひやかしでもOKですよ」と度量の広い不動産業者さんばかりならばそれでもいいのでしょうが、無料で多くの時間を割いて調査を行い経費をかけて関係資料を集めたりしなければ本来の「不動産査定」ができないことは長年の不動産取引の実績のある業者であればすぐにわかることですので、お遊び半分のひやかし客に対してはまともな対応をしないというのが正直なところでしょう。
まだインターネットがそれほど普及していなかった平成の初め頃には匿名の電話等で土地や建物の価格の査定を依頼する人もよくおられました。土地や建物の所在場所を聞いても大まかなことしか云われず、査定に必要なことを聞いてもこれまた大まかなことしか云われない方たちでした。弊社もへたな責任を負いたくもないのできちんとした査定ができないことを申し上げてお断りしていました。
反面、人に自慢できるような高い価値が想像できるような土地や建物でもなく、猫の額ほどの狭小な土地であったり、兎小屋程の小さな築年数の経った古い建物であったりすれば本当に売却を考えなければならない理由がある方達にとつては相談に行くのも勇気が要るものです。
不動産業を永くやっている私から云えば、そのような方の相談はアナログな時代には地元の金融機関(銀行等は土地や建物に抵当権等を設定して融資しているため不動産の売却を考え出した方はまずは銀行に話をもちかけるというのが普通)や税理士さん、街の相談役、そして地元の不動産業者に相談をしたりしていたものです。
しかしインターネットの爆発的な普及は、不動産の売買取引の世界にも大きな変化をもたらしてきて不動産の売主、買主間でやり取りされる情報の交錯のプロセスの主流にもなってしまったというのが現代ではないでしょうか。そういう時代が到来してくれば人々の意識や行動の在り方も当然に変わってくるのが必然! IT社会の到来といわれる所以です。
個人が持つ資産の中で一番高い値の張るものが土地や建物です。その売れるかもしれない金額が匿名性の高いインターネットを介して電話やメールであれば数時間のうちにわかり、数日後には査定書類として届く、しかも「無料」でとなれば査定依頼をする方がたくさん出てくるということは当然のことでしょう。「不動産一括査定屋さん」の作ったインターネット上の「査定フォーム」にわかる範囲内のそれこそ大雑把な内容でもいいということで書いて送信ボタンを押して完了!
そしてその内容が「不動産一括査定屋さん」のサイトに登録している不動産業者の方たちに一斉に送信され、その度に「不動産一括査定屋さん」にはチャリンチャリンと最低1万円〜1万5千円が登録している業者の数だけ入ってくるというスキームになっています。査定依頼をする方達は何故無料で査定をしてくれるのか疑問に思う方も居られるかもしれませんが、匿名性の高いインターネットの世界のことなのでそこまで疑問に思う方は少ないのではないかと思います。
「不動産一括査定屋さん」に査定依頼をかける「査定依頼客」からは査定料を取らず、「不動産一括査定屋さん」に登録している不動産業者さん1社から1件につき各1万円〜1万5千円を徴収するというスキームになっています。登録業者が6社あれば1件の査定依頼で瞬時に9万ものお金がチャリンチャリンと入ってくるというおいしい仕掛けになっているのです。
不動産業者さんは「不動産一括査定屋さん」を通じて、将来土地や建物をひよっとしたら売却するかもしれないという潜在見込み客を紹介してもらう代わりに査定屋さんにお金を支払うことになります。
ある「不動産一括査定屋さん」のサイトには登録業者の数を制限していない為に、人口の多い地域などでは15〜20社近い業者が登録していることもあります。売却の意思については皆無に等しい、査定への動機自体がまつたくのひやかしに近いいつ売却するのかさえ、本人にも何の意識もないような顧客からの査定依頼に対応をしている業者がいかに多いことか。
続きは●デジタル時代に現れた「不動産ブローカー」とは?
●デジタル時代に現れた「不動産ブローカー」とは?
インターネッがさほど普及していなかった10〜20年前には考えられもしなかった「不動産一括査定」の各社広告が今ではヤフーのトップページをはじめ、あちらこちらのページで頻繁に出てくる時代になっています。イーターネットのはしりの時代においてはインターネットでの広告はテレビはおろか、新聞、雑誌、ラジオ等の広告媒体の下の下をさまよっていたものです。
直近の広告の電通の調査によれば2018年のマスメデイァを介した広告媒体調査によれば、インターネットによる広告は第一位のテレビに迫る勢いだと云われています。第一位のテレビが1兆8000億円程であるのに対して、インターネットでの広告はそれに迫る勢いで僅か数百億円の差でに迫っていることが報じられていました。2019年はテレビを抜いて1位の座に躍り出ることはもう時間の問題だとさえ云われています。
このようなインターネットの勢いが爆発的に大きくなっていくにつれて、不動産の売買取引も大きく変化していきます。土地や建物等の売買物件の買主を捜す方法として、これまでは殆ど新聞や不動産専門の雑誌の広告欄を通じて行われてきました。
しかし新聞の小さな1枠程度のスペースでは不動産の内容を詳しく網羅することはできないだけでなく、新聞自体をインターネット世代の若者が情報獲得のツールとして選ぶことから離れていくにつれて、情報獲得の手段としてパソコンやスマホに取って代わられる時代がやってきたのです。それは地元の新聞を見れば以前は一面全部を占めていた不動産の広告が今では僅か数行になってしまったことからもわかります。
では自己所有の不動産を売却したいと思っている人たちがアナログな時代にどういう手段を取っていたかと云えば、それは先にも述べましたように地域の不動産業者や銀行さん等を訪ねて行って「どうしたものか」という相談から始まっていたものです。それは匿名性のない目に見える形で、マンツーマンで相談がやり取りされ、物件の調査から査定までがすべてが具体的な形で行われていました。具体性、透明性、正確性、信憑性に裏付けられたやり方であったと思います。
ところがインターネットで査定を希望する人たちが増えてきてからはこれらのことが一変しました。スローガン的に云えば、匿名性、抽象性、不透明性、曖昧模糊、不確実性、適当性等の言葉がピッタリするような「不動産一括査定屋さん」が登場してきたからです。
インターネットで簡単に所有不動産の査定依頼ができることは素晴らしいことだと思います。肩肘張って登記権利証書や登記簿謄本、建築確認通知書等を用意して「私の不動産の価格は幾らぐらいするのでしょうか?」と真剣に真摯にやり取りしていた時代が決して良い時代だと云っているわけではありませんが、現在の「不動産一括査定屋さん」がインターネットを介してやり取りしている査定のやり方には大きな違和感を感じている方も多くおられるのではないかと思います。
私が感じている大きな違和感とは端的に云って、「不動産一括査定屋さん」が提示しているサイトを見ていると、そこには不動産を所有している方たちの不動産を正しく、正確に査定をするというよりも、いかにして自社のサイトに引っ張り込んで査定依頼を行わせるかに腐心している感が拭えないからです。それは端的に云えば
@「査定依頼物件内容の大雑把性、不透明性、適当性」
A「高く売却できることをことさら強調しすぎ」
B「訪問査定よりも机上査定」
C「建物査定の際の建物構造欄の欠如」
D「建物築年月の欄の大雑把性」
等々です。
不動産査定のやり方も近いうちにインターネットでの広告がテレビを抜くことは時間の問題と云われています。多くの人が「不動産一括査定屋さん」を通じて自分の不動産を正しく査定してもらいたいという考えになっていると思えます。人間には欲があります。
ですから自分の不動産を高く評価してもらいたいのは当たり前のことでしょう。低い評価をされるのは自分の容姿や出自をけなされるのと同じような思いにもなることでしょう。
人間誰しも自分を高く評価してくれる人に靡くというか従っていく性質を持った生き物だと思います。
不動産の売買も男女の付き合いにも似た部分があります。不動産の仲介業をやっている不動産業者は男女の仲を取り持つ仲人のようなものです。お互いの悪い部分は極力伏せて、良い所を引っ張り出して仲をまとめる。そういう風に考えると「貴方の不動産を高く評価して高く売ってあげます」よという誘い文句で言い寄られた不動産所有者は少なからず心が大きく動くのではないでしょうか。
加えて「不動産一括査定屋さん」同士の厳しい競争もあります。10年程前はインターネット上で「不動産一括査定屋さん」を見かけるのはまだ珍しいような状況でした。しかしここ数年は「不動産一括査定屋さん」は儲かる商売と知った方達が挙って参加してきていて、恰も「雨後の竹の子」のような観を呈しています。
その為、「不動産一括査定屋さん」のどのサイトを見ても、一番目に付くのは自社のサイトで査定の申し込みをすれば自分の不動産が高く売れるという思い込みをさせるような広告が目立っている感じがしてなりません。「不動産一括査定屋さん」は不動産所有者の不動産を「買上げ」てくれるものでは決してなく、自社のサイトに登録している不動産業者に「査定を行わせる」だけのことしかできないのです。査定依頼者に不動産業者を紹介するのが仕事内容になっているのですから、「不動産一括査定屋さん」は斡旋屋、周旋屋、馬喰(ばくろう)、ブローカー(紹介屋)と云った昔ながらの言葉が当て嵌まるのが「不動産一括査定屋さん」と云えます。
このような状況で行われる「不動産一括査定屋さん」への査定依頼に対しては、実際の査定を行う不動産業者も査定が有った都度高い料金を「不動産一括査定屋さん」に支払い続けている以上、1件でも多く査定を行って売却の媒介契約を取らなければならないという悪循環に嵌ってしまうわけです。
正しい査定額を出そうと心がけても競合する不動産業者が出してくるであろう査定価格を予想するとき、そこには悪しき競争原理が働いてしまってどの業者も必要以上に高い査定になってしまう傾向が強くあると云えましょう。
弊社も、数社の「不動産一括査定屋さん」を介して査定作業を頻繁に行っていますが、このような状況を考えると年間に100件ほどの査定を行っても、そのうち媒介契約(一般媒介)に至るのは3〜4件、そして成約に至るのは1件もしくはゼロというかなり悲観的な予測をしています。それほど現在の一括査定の動きを見るとき費用対効果の薄いものと云わざるを得ません。
まさしく「不動産一括査定屋さん」とはデジタル時代に現れた「不動産ブローカー(紹介屋さん)」と云っては言い過ぎでしょうか?自分自身は何の査定技術、テクニックも持ち合わせておらず、不動産を売りたい人、売るかもしれない人を不動産業者に紹介して、成約の可否に関わらず紹介料を受け取るやり方は画期的なビジネスモデルの一つであり、賢いやり方であるかもしれませんが、やはり今のデジタル時代に現れたブローカー(紹介屋さん)そのものであると云えます。
続きは●不動産が高値で売れるという幻想
●不動産が高値で売れるという幻想とは?
数社のというより、今では雨後の筍のように次から次に出てきている「不動産一括査定屋さん」のサイト数は正確に数えたことはありませんが、恐らく,ネット上で優に数十社はあるものと思います。
世の中、儲かると思えるものには個人も会社も飛びつくものです。「不動産一括査定屋さん」の査定というビジネスモデルも確かに儲かっているのかもしれません。ですから次から次に同じようなタイプの「一括査定屋さん」がたくさんインターネット上に現れています。かれらもヤフー等の多くのページにかなり高い料金を出し続けて自社の一括査定サイトに誘導すべく努力をしています。
ですから不動産業者は査定を依頼してきた顧客の個人情報の他、物件の不動産内容を「査定屋さん」から受け取るたびに高い料金を「査定屋さん」に支払っています。ただどれ一つとして、何故自社の「一括査定」に依頼すれば顧客の不動産を高く売却できるのかという点については全く又は殆ど述べていません。ただ「高く売れます!」ということを繰り返しインターネット上の広告で連呼している感じが見受けられます。地方の市町村議員が選挙の際に、選挙カーから自分の名前を連呼するだけによく似ています。これは行き過ぎると根拠のない誇大広告にも該当しそうだし、まさに迷惑なノイズと云ってもいいのかもしれません。何の根拠なく「貴方の不動産は高く売れます」と云い続けることは何の問題もないのでしょうか?
公正取引委員会という組織があります。不動産業界に身を置くものとしてこの「公取」の定めた厳しいルールには皆が皆従っています。例えば売地の広告を出す際に「環境抜群」「日当たり抜群」「眺望抜群」「価格破壊」とかどれを取ってもNGなものばかりです。挑発的な言葉や文句、説明等によって消費者に正しい判断をさせなくするようなものは御法度ということになっています。
それらを無視した広告を打ったりすると業者は罰則を受けるということになります。「高く売れる、高く売れる、高く売れるよ!」といったフレーズを繰り返すのはテレビコマーシャルにも似たような言葉があるようです。人間耳元で何回も何回も同じ言葉を耳元でささやき続けられれは゛心が動くものです。あのドイツ帝国のヒトラーの右腕であった宣伝相ゲッペルスが駆使した、人々の心に響く単純な言葉を繰り返すのです。そうすれば人は靡くのです。
このことを考えたとき現在の「不動産一括査定屋さん」が大きく打ち出している「高く売れます!」というフレーズはかなり問題ありと云えます。クルマのように中古車販売業者さんが「高く買取ります!」というのとは少し訳が違うのです。「不動産一括査定屋さん」の云う、「高く売れます!」とは自社のサイトに登録している各不動産業者が査定依頼をして来る顧客の不動産を「高く買取る!」ということでは全くなく、仲介で「高く売ってあげる!」ことができるかもしれませんということを云っているに過ぎないということです。
「不動産一括査定屋さん」のサイト内容で査定方法を選択する箇所があります。机上査定と訪問査定の2種類があります。どこの不動産業者さんも恐らく同じようなことと思いますが、「一括査定屋さん」から送られてくる内容のほぼ9割以上が「机上査定」になっています。「机上査定」を選択している不動産所有者である顧客は自分自身が査定依頼をかけている不動産の所有者のケースもありますが、配偶者や子供等の親族等も多くおられます。
売却の動機が真に差し迫っている方もおられる反面、将来の相続や離婚、担保提供、マイホームを持っている奥さん同士の井戸端会議で自分の不動産価格を自慢しあう等潜在的な理由による方の方が圧倒的に多いのも事実です。ですから査定をした後に、いつまでたっても不動産の売買市場に査定した物件が出回ってこないようにも思えます。ましては成約した事例というのは確率的に2〜3%といったところでしょうか。
これまでも不動産業者は顧客から不動産の売却を依頼されたときは「売れるであろう価格」を様々な角度から導き出す作業を行います。土地や建物がひとつひとつ違うように、世の中に全く一緒という不動産はそうはありません。工場等で大量生産されるスーパーで売っているような画一化された商品とは違うのです。
何百区画という大量に供給される大型開発を受けて造成された住宅用の土地においても、似たような土地はあってもひとつひとつ見ていけば接道状況、間口の広さ、奥行きの深さ、土地形状、土地の高低差、面積等々に違いがあります。
査定作業というのはそれらひとつひとつを点数化していき「査定価格」を導き出していくのです。建物においても然りで、減価償却していく建物種類や構造に応じて経年劣化の状況や、定期的なリフォーム等も考慮に入れて建物内外部を建築の専門家と一緒に目視を重ねて瑕疵といわれる個所等の発見もしながら、現在の現存価格を算出していく作業を行います。その結果が「価格査定書」という形になって出てくるわけです。
多くの「一括査定屋さん」の査定フォームの中に「建物の構造が何か?」を要求していないケースが殆どと云って良いほどみられます。「一括査定屋さん」自体は何も査定を行わない為に、ひょつとしたらわかっていないのかとも思ってしまいますが、建物の現存価格を出していくには建物は土地と違って「減価償却していく資産」であるため現存価格を出すには、その構造を知る必要があります。
木造なのかプレハフ゛なのか、または鉄骨、鉄筋コンクリート造なのかによって償却年数が大きく違うからです。又、店舗等の事業用なのかマイホームなのかによっても同じく償却年数に違いが出てきます。
何故、「一括査定屋さん」サイトのフォーム欄にこの項目がないのかはよくわかりませんが、こういう基本的なことを省いて「一括査定屋さん」サイトを運営しているのかと思うと少しびっくりしてしまいます。
恐らくは査定項目は「より単純に!」と簡素化していくことが、より多くの顧客からの査定依頼に繋がるのではないかとという考えから意図的に省いているのではないかというのが私の考えです。昔の流行語にある゛Simple is best゛なのでしょう!
ですからいかにたくさんの査定依頼客を自社の「一括査定屋さん」サイトに誘導するかが肝になっているのではと考えています。
改めて云いますが、例えが悪いかもしれませんが「不動産の一括査定屋さん」サイトは田舎の市町村議員が選挙の際に、選挙カーから自分の名前を連呼するやり方によく似ています。何の根拠もなく「貴方の不動産は高く売れますよ!」と繰り返し云い続けることは何か問題があるような気が致します。
次は●「机上査定」と「訪問査定」
●「机上査定」と「訪問査定」とは?
不動産の査定の際に顧客から「なぜ無料なのですか」と念押しで聞かれることがときどきあります。それは査定を依頼される方が、不動産の金額を出すことができるのは不動産鑑定士だけができるものであるということからそう考えておられるのかもしれません。
不動産鑑定士に不動産の価格を出してもらうためには鑑定料を支払わなければなりません。戸建て住宅1件あたり15〜20万円の費用がかかると云われています。
裁判所の競売物件等を見てみますと、競売にかけられている土地や建物について何故、この価格で売りに出されているのかという根拠を詳細に示した書類を見ることができます。アナログな時代であればこの裁判所の競売物件の閲覧も裁判所に直接出向いて行わなければならなかったのが、今の時代自宅等のパソコンから即座に見ることができるようになったわけです。これもインターネット社会になったからこその大きなメリットといえましょう。
そこでは不動産鑑定士によるあらゆる角度から不動産を調査した結果としての価格が出されています。この価格は「最低売却価格」と云われていて、必ずしもこの価格で落札(複数の方が競売に参加されて一番高い金額を出された方が買えることになります)できるわけではありません。
不動産の価格を出す際に、不動産鑑定士の方がかなりの時間と多くの資料と専門知識を基に作成して出されるのが「不動産鑑定価格」と云われるものです。ですから信頼性は極めて高いもので、裁判所の他、企業間の不動産の売買、遺産相続の際に税務署に出す不動産の価格判定、離婚の際の財産分割による評価額等に利用されると云われています。
なぜこのようなことを述べているかと云えば、本来、不動産の査定又は鑑定というものは井戸端会議等の場で軽い感じでやりとりされるものではないと思うからです。「不動産の一括査定屋さん」のサイトがインターネット上に頻繁に出てくるようになってから特に感じるのですが、何千万もの価値がある不動産の価格について軽いノリで聞いて来られる方が増えてきています。
私の場合「不動産の一括査定屋さん」のサイトを介して、不動産の価格を査定される方の9割以上(私の場合は97〜98%に思えます)がその場で、又は数時間後にメールや口頭で「価格だけをザックリと教えてくれ」といったものが殆どです。数日後にきちんとした査定書類を送るのですが、その後のやり取りに発展していったケースは稀で「その場限り」が殆どと云っていいでしょう。
何千万もする価格としてこれほど大きく重みのあるものはなく、人の人生で一度あるかないかわからない不動産の売却の際の価格を知りたい方達がコンビニ等で売られている商品感覚で不動産の価格を尋ねてこられる。デジタル時代の利便さの裏側の弊害と云ってもいいでしょう。ですから「不動産の一括査定屋さん」のサイトを通じて査定依頼をされる方の9割以上(私の場合は97〜98%)は「訪問査定」ではなく「机上査定」を選択してこられます。
「机上査定」とは通常、簡易なといってもいい査定の方法です。土地建物がある現地に行っての確認までする必要はなく、今のデジタル時代ですから事務所のパソコンの前でヤフーやゼンリンの地図を開いて土地や建物の所在のみならず道路幅や土地の形状、間口、奥行きまでもそれこそザックリと確認し、可視的には建物を立体的にまでチェックできるのですからデジタルの凄さを感じることができます。
査定を依頼する方の殆どが「机上査定」の為、近所の方や家族にも知られたくないという秘密主義的な要望が多く、査定を行う不動産業者も現地で堂々と道路幅や土地の間口や奥行きをを測ったりとかの調査活動も充分に行うことも難しい部分があります。
土地についてもこういう状況ですから、建物については尚更です。建物の内部は当然のことながら目視で見ることはできず、外側も写真で撮るくらいがせいぜいです。築年数の経った中古住宅の場合は、建物外部の経年劣化も至る所に見受けられて当然でしょうが、それすらも確認することが難しい状況では「机上査定」は極めて大雑把な査定になるのは致し方のないことです。
それに対して「訪問査定」を選ばれれば、不動産鑑定士ほどの綿密緻密な作業をすることはありませんが、やはり市役所や法務局や水道局等の役所を回って資料閲覧をしたり、土地建物の在る現地に出向いて許せる範囲内での目視を行って価格査定の根拠になるデータ等を集めます。
そして現地に赴いての査定作業ができるわけですから、査定依頼者との対話もできるので、新築してからの土地や建物の歴史を教えてもらうこともできます。パソコンでも確認できていた土地の形状の他、間口や奥行きの確認、前面道路の正確な幅員や種類(公道又は私道)、道路と敷地の高低差や隣地との境界杭の確認や近隣との相隣関係等、建物については瑕疵と云われる建物の中の雨漏り跡や、床や柱等の劣化状況、建物のゆがみや傾き、建物全体のグレードの判定、使用されている材料・部材・流し台や洗面化粧台、浴槽、便器等の水回り設備のレベル・グレード等、さらには目視でも被害程度がひどければシロアリ被害の状況の確認もできます。
本来の建物チェツクは1級建築士により数時間をかけて建物の内外部を専門の機械等も使いながらチェックしていき、それを「建物の状況調査結果書」として出していくことになります。これを通常、建物インスペクションと呼んでいます。それは土地建物の契約書につけられる「重要事項説明書」に平成30年4月以降は、建物のインスペクションについての記載が義務付けられることになりました。
これらの地道な作業に基づいて出されるのが「訪問査定」の大きなメリットです。簡易な「机上査定」とは雲泥の差があります。本来ならば不動産の売却価格を出す為の「査定」とは売主が隠しておきたい、できれば云いたくない伏せておきたいような内容である不動産の「負」の部分、目視ではなかなかわからない土地建物の瑕疵部分(以前建物でボヤがあったとか、白蟻被害があったとか、過去に修復した雨漏り箇所とか、地中に鋼やブロック等の残材が埋まっているとか、隣地と境界揉めが続いているとか、さらには「告知書」なるものを売主になる方から記載してもらって、心理的な瑕疵にもなる建物内での親族の自殺や他殺、近隣に暴力団施設があるとか)も確認できることにもなります。
経験を積んだベテランの不動産業者が行う不動産の査定とはこのように緻密に時間をかけて普通行われるものです。不動産一括査定屋さんを通じて行われる「机上査定」で行われる表面的なザックリとした皮相的な査定とは大きく違います。不動産は普通の商品と違って、個性が強くひとつひとつに違いがあるため必ず現地、現物を自分の目で見るのが不動産業界における昔からの鉄則と云われています。
そういう不動産の大きな特徴を無視したわけではないのでしょうが、簡単でその場でできる「机上査定」なるものが跋扈してきて時間のかかる「ややこしい訪問査定」はダメということになるのでしょう。多くがインターネット化してデジタルな時代になった今、不動産の査定も「簡易簡便な机上査定」で行うことは時間的にも簡単にできるようになっています。物件の所在確認もヤフーやグーグル、ゼンリン地図等で立体的に可視化して行うこともできます。
土地の路線価格、地価公示価格、建物では年次ごとの建築標準単価等も即座に見ることができます。ですからこれらの指標になる資料を査定依頼者が見て、自分なりの判断をすることも可能になっています。
このように書いていくと恐らく近い将来は間違いなくAI時代になれは゛、不動産の査定価格もAIが即座に教えてくれる時代がすぐそこまでやって来ていると云ってもいいでしょう。私のホームページにもAIによる不動産査定をリンクしていますが、AIが正確に確実に不動産の査定を行えるようになる為には、土地にしてみてもAI自体のデータ化(全国各地域ごとの土地の基礎データ(路線価格、地価公示価格、固定資産評価額等)をはじめ)がもっともっと進まないことには「簡易な机上査定」の域を超えることはないでしょう。
事実、弊社が所属している熊本県宅地建物取引業協会には不動産業者が1500社以上加盟して日々、不動産取引業務を行っております。その中で「不動産一括査定屋さん」サイトを利用している業者の数は僅か1%弱程度に見受けられます。完全歩合給の営業マンをたくさん抱え込んでとにかく1件でも多くの不動産査定を行って売却の媒介契約を増やさなければならない必要に迫られている業者さんが名を連ねているようです。
次は●クルマの査定と不動産の査定の根本的な違い
●クルマの査定と不動産の査定の根本的な違いとは?
ここまで不動産の査定についていろいろと述べてきたなかで、既に気づかれた方もおられるかもしれませんが、「不動産の一括査定屋さん」が打ち出している「査定」というのは、「不動産の一括査定屋さん」サイトに登録している各不動産業者の方達が査定依頼者の不動産が“不動産市場において売れるマックスな可能性のある価格”であるということです。
ということは各不動産業者の方達が査定依頼をしてきた方の不動産を「買取ります」よと云う価格ではなく、不動産市場において「売れるかもしれないという希望的観測に基づいた超楽観的な価格」であるということです。それには各不動産業者とそれぞれ売却についての媒介契約(1社だけと結ぶ「専任媒介契約、専属専任媒介契約」又は各社と結ぶ「一般媒介契約」)を結ばなければなりません。そして媒介契約後に査定価格に基づいて販売活動を開始することになります。
ただこの売出価格は不動産市場に出しても、一括査定の中で出されてきた金額が各不動産業者が「媒介獲得競争」の中で出されてきたものであるため、適正な市場価格からかなり乖離した高い金額になっておりインターネット不動産市場に出回ってもそう簡単に売れることなく無駄な時間を費やしているのが現状のようです。
その結果、ある程度の期間が経過して「値下げ!」「値下げ!」と連続的に売却価格を下方修正せざるを得なくなり、結果的には他の売却物件の「引き立て役!」「かませ犬!」的な役割になっていることが不動産売却のポータルサイト等を見ているとよくわかります。
「不動産の一括査定屋さん」サイトに登録している各不動産業者さん達も、適正な売れるであろうという価格で査定を行ってはいるのでしょうが、高い紹介料を「不動産の一括査定屋さん」に支払い続けているとせめて1件ぐらいは媒介契約更には売買契約を結ばないことには費用対効果があまりにも悪いということになり、知らず知らずのうちに高い金額の査定を行ってしまっているというのが正直のところではないかと思います。
それほど「不動産の一括査定屋さん」サイトからのルートで不動産市場に売却物件が出てきている事例が少なく、仮に売りに出ていても他の競合物件に比べて高値で出ていたりとか、殆ど売却に出ていないというということが不動産売却のネット市場をみているとわかってきます。
このことは少しでも高く売りたいという消費者(ここでは「不動産の一括査定屋さん」サイトに売却査定を依頼する不動産の所有者)の意識が根底にあるからだと云えます。そこに「不動産の一括査定屋さん」サイトが打ち出している「高く売ってあげますよ」がうまくマッチングして不動産のネット市場に売却物件として出回っているわけです。
ただ結果的には長い時間をかけて最後には、最初の売出価格から3〜4割も下がった価格で売却が終わってしまっている物件を不動産のネット市場では垣間見ることが多くあります。大いなる時間の無駄がここに現れています。
要は、「不動産の一括査定屋さん」サイトを介して出てくる「価格は」不動産業者が仲介を通じて「とりあえず売ってみましょう!」という不動産業者にとっては何のリスクも抱えない、不動産の査定を依頼してきた方を゛よいしょ“と持ち上げた価格ということでしょう。
縁日の屋台で売られているやきそばやお好み焼きが法外に高い値段で売られていてもお祭りの場所で売られているものならコンビニで100円で売られているものが500円で売られていても特別文句も言わずに人は買っていくものです。
そういう買い方は人は理屈で買うものでなく感情で買うものだと心理学的には説明されています。しかし一番大きな買い物である土地や建物を人がそういう買い方をするかはちよっと考えただけでもわかります。そのことが解っている方は「不動産一括査定屋さん」を介して出されてくる゛縁日の屋台で売られるお祭り価格゛みたいな価格に一喜一憂することはないでしょう。、
不動産業者にとってのリスクと云えばなかなか売れない不動産を長い期間に亘って販売し続けなければならないという時間の無駄と新聞やネットの広告料位でしょう。
ですから不動産業者はこのような元々売却価格に無理がある不動産に対しては「媒介契約」が切れる3ケ月目を迎える頃には大幅な値下げ価格を売主に提示してきて、売却を急がせようとする動きに出てこざるを得ないということになります。これらのことが長く不動産の取引を行ってきていると不動産のネット市場から感じ取ることができます。そして何回もの値下げ活動を行って当初の売却価格よりもはるかに安い金額で売却をしてしまうということになり、最終的に泣きを見るのは誰かというと不動産の売主・消費者であることは間違いありません。何故ならば媒介に基づいて売却を行っていた不動産業者は不動産の「買取」をしたわけではなく、ただ仲介で売っていただけであるからです。
上に述べましたことが「不動産の一括査定屋さん」サイトを通じて不動産売却を行った際の大きな特徴です。「不動産の一括査定屋さん」サイトも又各不動産業者の方達も何の責任を取ることもありません。
特に「不動産の一括査定屋さん」は免許制度下での「不動産取引業者」ではなく、現代のデジタル時代における紹介屋さん、悪い云い方をすれば「不動産ブローカー」みたいなものですから責任を取ることは全くあり得ません。又、「高い値段で売れると信じ込ませて売却を任せていた不動産業者」さんに責任を取らせることも法的には全く難しいと云えます。結論は売れるものは売れる価格でしか売れないという需給バランスの中で起きたこととなるのでしょう。
ですからクルマ等の査定とは全く違うということをここまで読み進めてきた方ははっきりとお分かりになったことと思います。ご自分の車を「中古車サイト」市場に出して売られたことのある方はクルマと不動産は同じ査定という言葉が付いていても、クルマは中古車さんが「買取をしてくれる!」査定であり、不動産は不動産屋さんが「取り敢えず売ってみましょう!」という査定という大きな違いに気づかれたことと思います。
もちろん不動産に対しても不動産屋さんが「買取る」という方法もあることはあります。しかし、不動産の価格はクルマに比べれば軽く10倍、またはそれ以上というのが当たり前ですから、買取を提示してくる不動産屋さんの数はあまり多くはないと云ってもいいでしょう。そして買い取る金額もクルマの買取と同じように年数に応じて「減価償却後の残存価格」での買取となるわけです。ただ建物が減価償却をとっくに過ぎた残存価格がまったくない古い建物の場合には「建物の価値ゼロ」として、土地代から建物の解体費を差し引いた価格で買取るという業者が普通です。
「不動産の一括査定屋さん」サイトを通じて不動産売却を行おうとしている数多くの方達が取るべき最良な方法は何なのか? 高く売ってあげる業者が見つかりますよ!という「不動産の一括査定屋さん」サイトも利用すべきだと思います。
そしてそこで提起される各不動産業者の査定価格を把握したうえで、ご自分が信頼を寄せている不動産業者さんと相談をしながら売却活動に入っていくことが一番ベストな方法だと思えます。地域の中で厚い信頼があり、そして長い経験と豊富な知識を兼ね備えている業者を捜すなり、又紹介を受けることが一番納得のいく方法での売却ができるものと考えます。それは自分が売ろうとしている不動産がある所在場所とはまつたくかけ離れた場所で業務活動を行っている不動産業者が果たして、その不動産のことを熟知しているでしょうか?
不動産はひとつひとつが違いがあり個性があるように十把一絡げに対応できるものではないことは一度でも不動産を売却した経験のある方であればお分かりになることと思います。
又、瑕疵担保責任との関係では土地建物に価格を付けて売却する以上、「建物検査」を受けずに売却することはできません。瑕疵と云われる建物の雨漏り、白蟻、家の傾き、給排水管の詰まりや漏れ等は検査でチェックを受けておく必要があります。適当なアバウト価格査定を基にして媒介契約⇒売出しでは必ずや契約後に大きなトラブルに発展する可能性が大きいと云えます。
不動産は法律的には「土地及びその定着物」と定められています。土地の売却価格を査定しようと思えば、最低でも現地に行って土地を見て確認することは当然でしょう。
土地の間口や奥行きそして形状、道路の幅員、舗装状況、道路と土地の高低差、接面道路の方位、周辺環境や日照の程度等はやはり現地に出向かないことにはわかりません。数値的なことも含めて人間の五感を駆使して感じ取ることもあり得ます。
土地がこうであるように建物に対してもやはり同じようなことが云えます。このことは多くの「不動産の一括査定屋さん」サイト欄の建物の項目に建物の構造を入力する箇所がないのが不思議に思えることからもわかります。建物は土地と違って減価償却していく資産であるわけですから、その建物の残存価値を出していくためには建物の築年数に応じた減価償却を行って残存の建物価格を出していかなければ現在の建物の価格も査定できないことは査定をしたことのある不動産業者にしてみれば当たり前のことです。
しかしこの項目を省略しているのが「不動産の一括査定屋さん」サイトに殆どと云っていいほど見られます。これは意図的に入力作業をやり易くして1件でも多くの査定依頼を受けんがためになされているのか、あるいは「不動産の一括査定屋さん」さん自体は所詮は広告業者さんであり不動産取引を全く行っていない業者さんなのであいまいで無知故のことなのかはよくわかりません。
確かに不動産の売却という個人にとっては少し後ろ向きなところもある査定に係ることですから、秘密裏にそして隠密裏に進めていかなければならない点はあるでしょう。売主のプライバシーに配慮して長い時間をかけて不動産業者が現地にて査定作業を行うこともできないこともあります。
ですから本当にご自分の不動産をより高く売りたいという方は、「簡易な机上査定」という少し、又はかなり曖昧でザックリとした信憑性に欠けるものであっても、それを参考にして最終的にはご自分が信頼を寄せている不動産業者さんと相談をしながら売却活動に入っていことことが一番ベストな方法であり悔いの残らないことになるのではないかと考えます。
●不動産ミニバブルの原因を作っている?「不動産一括査定」
2020年の東京オリンピツクを控えた日本の不動産事情についていろいろな角度から意見が多数出ていることは、インターネットに普段から目を通している方にとってはよくあるテーマの一つであろう。
東京オリンピックを境にして、日本の不動産の価格が下降展開を始めてズルズルと下がり続けていくのではなかろうかと「悲観的な予測?」をしている論調は多くある。例えば、令和になった2019年5月以前にも、数多くの個人の不動産投資家にアパートやマンション購入資金を融資していたスルカ゛銀行の不正融資問題が明るみにでて、素人のサラリーマン不動産投資家の中に空家が増えたことにより銀行への返済が滞り始めた方が出てきたというのもその一端であろう。
他方、大手企業の資金調達が銀行等からの間接融資に頼らずに、株式市場等から直接的に資金を集める直接金融にシフトしているという意見が多くある現状では、地方の金融機関が融資先を増やしていくには元気のある中小企業に対する融資を増やしたり、建築不動産に対する不動産融資を増加させていくのも無理からぬ面とも云える。
不動産取引を30年も長くやっていると゛バブルの足音゛みたいなものを肌で感じることが最近はよくある。東京や大阪などに比べれば熊本みたいな地方都市では新聞やテレビ、さらにはインターネットの論調自体にミニバブル的なものが現れるということはまだまだ感じ取ることができない状況ではあるが、まだまだ地価に対する割安感のある熊本市周辺の新興住宅街等において新しい土地開発がどんどんと為されている状況等を見ていると「ミニバブル」の状況なのかなと思うこともしばしばある昨今である。
例えば2〜3年前に宅地開発された郊外の分譲宅地が坪14〜15万円程であったのが、僅か2〜3年の間に坪19〜20万円もの価格が付けられて売りに出されたりするケースに出くわすと、順調に売れる売れないかはさておきバブルをどつと肌で感じるざるを得ない。
開発に適するような大きな土地を所有している農家の方等と土地の価格交渉をしている時などは特にそういう「感情」を抱かざるを得ない。2〜3年前の農地の売値が坪5〜6万円程であったのが、周辺の最近の分譲宅地の価格が高騰している状況を理由に優に坪2〜3万円程高く買取って欲しいと云われる状況に出くわしたりすると゛ああ熊本もバブル化しているのかな!゛と深く溜息をつかざるを得ない状況にもなってしまう。
一方、不動産の中で個人の方達の唯一の不動産と云って良い゛持ち家゛(中古住宅)の状況をお伝えしたいと思う。個人の持ち家が何らかの理由で不動産の売却市場に出回るようになるまでには、それなりに紆余曲折があるわけだが不動産のポータルサイトによく目を通していると、売りに出されている物件の数や売出価格の変化に気づくことがある。
中古住宅の流通についてはこれまでの売買仲介の在り方が、相変わらず「現状有姿売買」という方法でなされていた不動産流通の゛悪しき慣習゛が長く存在していたため、中古住宅の流通の世界はブラック市場とまで云われていた経緯があります。
中古住宅を仲介で購入するということは、下手をすると「とんでもない物件」をつかまされるかもしれないという不安が現実のものになっていたのが「現状有姿売買」に隠されていた現実だつたのです。お金を支払いやっと手に入れた住宅に住み始めた途端に、雨漏りが出てくるわ、排水が頻繁に詰まる、家の傾きが肌で感じる以上にひどい数値が専門家の検査で明らかになるわで、契約前には予測もしなかったことが次々に出てくる等のことが現実に起こり得る可能性が大きく孕まれているのが「中古住宅売買」の実態であったからです。
ですから、日本の住宅流通について国の統計資料をいくつか見てみると誰でも理解できるように、新築と中古の比率がこの間ずーつと新築のウェイトが圧倒的に多いことが一目瞭然で読み取れます。
特別、日本に゛新築神話゛なるものがあるとも思えませんが、中古住宅の売買自体がとても安心して取引できるような状態ではなかったし、今でもまだそれほど安心できる状態ではないというのが本当の所ではないでしょうか。ですから圧倒的多数の人たちが゛新築゛に流れているというのが実態と云えそうです。
しかし、最近の「空家問題」でも大きく取り上げられているように、年々爆発的に増え続けている空家の数を国も゛何とか対策を打たねばならない゛という焦りからか、数年前から゛中古住宅の流通゛の活性化対策なるものをどんどんと打ち出してきています。
それは建物インスペクションということに代表される、中古住宅の徹底的な検査や流通を促すための保険制度の設立(中古住宅個人間売買瑕疵保険)、最近では「安心R住宅」等を通して、個人の方が安心して中古住宅を購入できるようなスキーム作りが整えられつつあります。
確かにポータルサイトあたりに載っている中古物件の中には、以前と違って「建物検査済み」とか「売買瑕疵保険付」等の添書きのついたものが増えてきているのも事実です。広告に出てくる中古物件の殆どが「安心取引」できるようになれば日本の中古住宅の流通も飛躍的に増えていくのでしょうが、それには今以上の「取引の安心化」を図るような仕組みが充実していかなければまだまだ「新築神話」の壁は簡単には打ち破られることはないものと思います。
冒頭に不動産のバブル化の兆候のことを述べましたが、中古住宅の流通においても限られた物件数とはいえその兆しはみられるようです。中古住宅の価格が数年前に比べれば少し高くなっているような感じがするからです。
中古住宅の価格には土地の価格も当然含まれているわけですから、いや大半が土地の価格でしょうが土地の価格が毎年上昇傾向にある状況では建物を含めた中古住宅の価格が毎年上昇するのは理解できます。
ただ熊本地方においても毎年発表される公的な地価公示価格や路線価格等を見る限りではそれほど激しい変動があっているわけでもないのに、中古住宅の価格が高くなっていると感じるのは売れてる売れてないに拘わらず、市場に出てくる中古住宅の価格が高い価格で出されている(建物価格で本来ゼロにも関わらず建物価格が数百万円も含まれている)ことに原因があるような感じが致します。適正な価格よりも高い価格で市場に中古住宅が出回り始めている原因はどこにあるのでしょうか?
私が思うにはここ数年人気が出てきている「不動産の一括査定」なるサイトがインターネット上で数多く出回ってきていることに原因があるような気がします。インターネットを開けばヤフーのトツプページだけでなく、政治経済欄、芸能スポーツ欄、ニュース欄その他あらゆるページにこの「不動産の一括査定」へ入り込める広告ページが見受けられることです。「不動産の一括査定」を運営しているのは不動産会社ではなく、不動産会社を紹介するIT関連の広告会社中心の会社です。運営会社は不動産会社ではない為、顧客の所有する不動産の価格を査定するノウハウや技術等は持ち合わせていず、ただ単に査定を実際に行う複数の不動産会社をネットで紹介し繋ぐ役目をしている、まあ現代のデジタル不動産ブローカーみたいなものです。
ただ「不動産の一括査定」のやり方が、間違いなく売れるであろう適正な売却価格を査定するのであればそう問題もないのですが、各査定運営会社はヤフー等に支払わなければならない莫大な広告費の為(平成30年度の日本のネット広告費の総額はTVに迫っています!)、これまた莫大な利益を出さなければならないので「不動産の一括査定」会社同士の厳しい競争に打ち勝たなければならない為、自社加盟の不動産会社に査定を依頼すれば顧客の持つ中古住宅等が高く売却できるかのような期待を持たせて何とかして査定の申し込みをさせるような工夫をありとあらゆる形で行っているというのが現実です。
査定依頼をする不動産の所有者自体の査定の動機が何が何でも゛高く売りたい゛という強い意思があるため、「不動産の一括査定」サイトに有料登録している各不動産会社は「売れるであろう適正な売却査定価格」を出そうと意識していても、他のライバル不動産会社(普通は6社程に限られている)との競争に晒されている為必要以上に無意識下で「高い査定価格」を顧客に提示している感じがしてなりません。
そのことがポータルサイト下の不動産流通市場に出てくる中古住宅等の価格が高く出てきているのではないかと感じることが最近は多くなりました。確かに数年前にも中古住宅の価格を検証していたときに、ときどき飛びぬけて高い価格で売りに出されていた物件にでくわしたことはよくありました。
私も当時から、一括査定を行っていましたので依頼があった物件の査定をした後に媒介に至るケースもそうでないケースもいろいろありました。
記憶に残っている物件ですが、査定依頼が「不動産の一括査定」サイトから舞い込んだので適正な査定価格を2000万円弱で行って査定書類を送付した後、例のごとく何の音沙汰もなかったため又高い査定価格を打ち出した他社が媒介を取ったのだろうと思っていたところ、売主の方から売却活動をしたいのであれば加わってもいいと連絡があり相談することになりました。
媒介での売却価格は私が査定した価格2000万円弱で売却活動を行えるものと思っていたところ、売主の方は査定を行った各不動産会社の他にも自分が知っている不動産会社を加えると10社以上に声を掛けて、自分が考えている価格で販売活動を行ってもらえればと媒介契約を結ぶということでした。
しかしその販売価格を聞いたときに思わず耳を疑ってしまいました。私の査定した価格の倍近くの価格で販売してくれというのが条件でした。そのため私はこの販売を断ったことがあります。それでも7〜8社の不動産会社がこの物件を相場からかけ離れた価格で販売を続けていましたが、2年近く経っても売れずに最後は私が最初に査定した価格である2000万円弱にまで価格が下がって販売を継続していたことを思い出します。
これは決して極端なケースではなさそうです。これに似たような物件は私が取り扱っていない物件でも市場によく出回っているような気がします。そして時間の経過に比例してどんどん価格が下落していく中古住宅物件はポータルサイトあたりでよく見かけることです。
このケースは「不動産一括査定」で各不動産会社に査定をさせた後、売主の方が各社の査定金額を参考にしながら自らが売却価格設定のイニシァチブを握って、自らが決めた売却価格で販売をしてくれる不動産業者だけに販売を任せたケースと云えます。
しかし、買主になる方達も不動産価格に対しては素人とはいえあまりにも相場よりも高い金額で市場に出ている中古住宅には気が付くものと思います。最終的に売却されたのか、中途で売却中止になったのかは把握していませんが、各不動産会社も2年もの間インターネットで広告を流し続けた結果が、売却中止になったのではまさに徒労としか云いようがありません。ミニバブルの兆候の一端を担ったという悪い意味での゛貢献゛をしたということでしょうか。
この「不動産一括査定」を介して査定依頼をしてくる不動産の所有者の特徴ですが、各不動産業者が打ち出して来る「査定額」をあまり信用していないような兆候が見受けられます。一般的には4〜6社の査定額が自分の元に届くことで、自分の所有する不動産の「相場感」を凡そ把握できるというメリットがある半面、査定額がどのようにして出されてきたかという大切な面には目が行っていないような人が多いように感じられます。
私のように「一括査定競争原理」に敢えて惑わされずに、自分の考えた通りのやり方で査定を行うとどうしても低い査定額になり、それをそのまま「査定書」として届けるものですから過去に100件程の査定を行ったにも拘らず、「媒介」に至ったケース(しかも一般媒介)は僅か1〜2件で成約には未だ至っていないという極めて費用対効果の悪い(最近の若者語では「コスパが悪い」という短縮語が使われている)ことになってしまいます。
以前はそれほどまでひどく感じることはなかったのですが、最近の「不動産一括査定」サイトのページの殆どが強調しているのが「高価格」オンリー戦略です。それは「不動産一括査定」サイトに査定を申し込めばあたかも゛自分の所有する不動産がすごく高い金額で売却できる゛かのような錯覚に陥らせるかのようなサイトになっているところです。
「不動産一括査定」サイトが顧客の所有する不動産を゛買い取ってくれる゛わけではないということぐらいは理解しているのでしょうが、このサイトに査定依頼をすれば自分の不動産を高額で売却してくれるのではないかと過度に期待するような不動産所有者が余りにも多くいるのではないかと思ってしまいます。
適正で間違いなく売れるであろう金額を提示してくる不動産業者にはお呼びがかかることはないのです。逆に゛何故私の不動産をこんなに安く査定したのか゛とキレられることもあるくらいです。なかには建物の検査を申し出ると「それは困る!」と頑なに検査を拒む方も多くおられます。何故かというと検査を受けることで建物の欠陥が露わになり、そのことで売価格が下がってしまうからでしょう。業者が間に入って売ってくれるのだから「黒も白に」してくれという全く自分本位な方も多くおられます。瑕疵の在る建物を売ったのは自分でなく、仲介の不動産業者なのだから買主に対する責任は不動産業者が負ってくれという顧客の方もおられます。ここまでくるとカスタマーズハラスメントの極みです。゛高く売れさえすればそれで良し!゛の下で、不動産市場に出てくる売中古住宅にはこのようなリスクが多く孕まれていると云ってもいいでしょう!
査定各社の中で幸いにも「媒介」が取れ、必要以上に高い売却価格で不動産市場に物件を出したとしても結果は゛値下げ゛゛値下げを継続的に行わないことには最終的に成約まで至らないということでは売主も不動産業者も疲れ果ててしまうのではないかと思います。