熊本県菊池郡菊陽町の大田宅建事務所:ホームへ

建設協力金と債権譲渡の件 Q.A

  地主Aは自己の所有するバイパス沿いの土地に、レストラン事業を全国展開する事業会社Bとの間で建設協力金貸付方式による建貸契約を締結し,Bの希望する建物(外観,規模,構造等)を完成させ,A名義で登記した。

 契約期間20年,建設協力金1億円,Bへの毎月返済金に相当する額は家賃と相殺という主要条件の下,期間中のBの任意撤退による建物の空室の危険を避けるためにBの自己都合による撤退のときは,BのAに対する建設協力金貸付金の残額請求は放棄するという特約条項を盛り込んだAにとっては有利な内容の契約であった。

 ところが期間10年を経過したころB会社は極度の経営不振に陥り,破産同様の状態になったため,BはAに対する協力金貸付金の残額5000万円をBの債権者であるCにAの承諾無しに譲渡してしまった。債権譲受人であるCはAに対して請求してきたもののBの撤退により返済原資である家賃が入ってこなくなったAは途方にくれた。

 契約が私製証書または公正証書によるも、期間途中のBの自己都合での撤退による際の建設協力金残額請求放棄の特約条項が契約書に記載されておれば,Bは残額請求を放棄せざるを得ない。仮にBが契約に違反して請求放棄をせずにBの債権者Cに債権譲渡を行ったとしても、同時履行の抗弁権に基づき譲渡を受けた新債権者CはAに対して継続して賃料を支払うことにより建設協力金の返済の弁済を受け,またAはCの賃料支払いの履行がない限り弁済に応じる必要はなく,従前のAB間の契約通り毎月定額の返済金をCに支払えば足りる。

 つまり債権譲渡通知は債権譲渡に対抗力を与えるにとどまり,債権の同一性に影響を及ぼすものではない。すなわち,債務者は債務不成立,無効,取り消し,同時履行の抗弁権をはじめ,弁済,相殺などによる債務消滅の抗弁を含む一切の抗弁をもって譲受人に対抗することが出来る。

 参考条文と判例

 債権の譲渡性 民法第466条

 債権はこれを譲渡すことを得。但し,その性質がこれを許さざるときはこの限りにあらず

  1. 前項の規定は当事者が反対の意思表示をしたる場合にはこれ之を適用せず。

 民法第466条関連判例

 譲渡禁止特約のある債権を悪意の譲受人から善意で譲り受けた第三者に対しては,、譲渡禁止特約を主張してその効力を争うことは出来ない                   

           大判昭13.5.14民集17−932

 譲渡禁止特約のある債権であっても、差押債権者の善意,悪意を問わず,転付命令によって移転し,この場合には本条第2項の適用はない。                    

           最判昭45.4.10民集24−4−240

 譲渡禁止特約のある債権の譲受人は,その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは,その債権を取得し得ない

最判昭48.7.19民集27−7−823

 

指名債権譲渡の対抗要件 民法第467条 

 指名債権の譲渡は譲渡人が之を債務者に通知し,又は債務者が之を承諾するにあらざれば之を持って債務者,その他の第三者に対抗することを得ず

  1. 前項の通知又は承諾は確定日付ある証書を持ってするにあらざれぱ、之をもって債務者以外の第三者に対抗することを得ず

 異議を留めない承諾の効果 民法第468条

 債務者が異議を留めずして前条の承諾を為したるときは譲渡人に対抗することを得べかりし事由あるも,之をもって譲受人に対抗することを得ず

  1. 譲渡人が譲渡の通知を為したるにとどまるときは,債務者はその通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することを得

 

契約上の問題点

契約書条文第  条第 項を下記のように変更しておかないと地主側に不利な面がある

つまり1. 乙は乙の自己都合による本契約期間中の中途撤退の際は,乙の責任でもって後継借受人を見つけるものとし、借受人が見つかった場合は、甲に対して預託した敷金および建設協力金貸付金の取り扱いについては、甲の書面による承諾を得た上で債権譲渡の形をとるものとする

後継借受人(丙とする)である債権譲受人は,甲・乙間の建設協力金に伴う金銭消費貸借契約上の乙の地位を承継するものとし、従前の甲・乙間の契約どおり家賃の支払いを受けた上で協力金の返済をする同時履行の抗弁権と,家賃と返済金に関わる相殺権の付着した債権を乙より譲り受けるものとする

 上記のような内容にしておかないと,もし乙が悪意のある借受人である場合,乙と丙が予め示し合わせた上で甲の店舗を丙が借り受け,短期間のうちに契約を解除したりすると,甲は空き店舗になったうえ、しかも家賃が入ってこない状態で乙に建設協力金を返済しつづけなければならないという不測の事態に陥る危険性がある

 もし仮に、甲が乙又は丙に異議を留めずして債権の譲渡の承諾を為したときは、甲は譲渡人である乙に対して対抗することが出来た事由(同時履行の抗弁権・相殺権)があっても、これを以って債権の譲受人である丙に対しては対抗できないことになり,請求があれば一括して建設協力金の残額を丙に返さなければならないことになる