●遺産分割・分割方法・代償分割・遺産分割のやり方
仮例 Aさんは家族の献身的な看病の甲斐もなく、ついに80歳の一生を病院のベッドの上で家族に見守られながら終えられました。そして初七日もようやく過ぎた頃、けたたましい電話の音に目を覚まされたAさんの奥さんが受話器を取るとAさんの債権者である金融機関からの電話でした。Aさんが生前、相続税対策として建てたアパートの借入金のことでした。アパートの経営は建築してから未だ一度も空室になったことはなく,順調にいっていたのでよく話を聞いてみるとアパートの名義と借金の債務者を早く決めてほしいということでした。相続を早くしてほしいということです。
Aさんは農家であったためそこそこの不動産を所有してはいましたが,先祖伝来の土地を殆ど売却することなく必死に土地を守りつづけてきたのです。Aさんが20数年前,亡き父の土地を相続したときは農業を守っていくということで他の相続人である兄弟姉妹には相続の放棄をしてもらいました。当時はまだ土地も安く,話もスムーズにいったのですが,今は土地の値段も当時の何十倍になり土地の総額はちょっと計算しても7?8億円ぐらいにはなりそうです。Aさんといっしょに農業をやってきていた長男であるBさんは、できれば今回も亡き父と同じように自分の兄弟姉妹が相続を放棄して自分が農業を引き継いでいきたいと思っています。しかし現実はそんなに簡単にいくでしょうか。遺産の分割の具体的な手続きは法律の専門家に任せればいいとしても,具体的な土地の相続については相続人の間で決めていかなければなりません。頭の痛い日々が続くBさんです。
●遺産分割
共同相続人の共有財産を各相続人に分属させる手続きをいい、被相続人が遺言で分割方法を指定し、一定期間分割を禁止したりした場合を除き分割は原則として自由である。
●遺産分割の方法
指定分割:被相続人は遺言で分割方法を指定でき、また第三者に分割方法の指定を委託することもできる。
協議分割:
被相続人が遺言によって、分割禁止をしていない限り、相続人はいつでも分割の協議ができ、相続人中の一人が他のものに対し分割の請求をしたならば、他の者はそれに応じなければならない。
(注):協議の成立には共同相続人全員の参加とその合意を必要とし、一部の相続人を除外し、その者の意思を無視した分割の協議は無効となる。
(注):相続人中に未成年者とその親権者がいる場合は、分割協議は利益相反行為になるから未成年者のために裁判所による特別代理人の審判によって分割がなされる。
審判分割:
相続人の間で協議が整わなかったり、相続人の中に行方不明者や重症の病人がいて協議に加わることができないとき家庭裁判所の審判によって分割がなされる。
[遺産分割と登記]発展知識
(ケース)被相続人の死亡により、甲および乙が各2分の1ずつの割合で共同相続した不動産を甲が単独で取得する旨の遺産分割協議が成立したあと,乙がその不動産を単有名義に相続登記をして,丙に譲渡した。この場合,甲は登記なくして丙に単独の所有権を主張できるか。
遺産分割は,相続の開始のときに遡って効力を生じる(民909)。しかし,第三者との関係では、遺産分割は、相続人が相続によっていったん取得した権利が、分割によって移転したのと異ならないから(つまり,第三者からすると,甲・乙が共同相続し,その後遺産分割によって乙の持分が甲に移転したのと実質が同じ)、遺産分割によって法定相続分と異なる権利を取得した者は,その旨の登記をしておかなければ、相続分を超える権利については第三者に対抗できないのである(最判昭46.1.26)。したがって,甲は,丙に対し,法定相続分の限度においてしか対抗することはできず,所有権の全部を主張することはできない。
●代償分割
遺産が分割に適さないものであったり、先代の事業を承継する特定の相続人が大部分の遺産を取得しなければならない事情があるときには、遺産そのものを取得できない相続人がでてくるため、これを金銭で精算したり、遺産以外の財産を与える等、相続人の間で、遺産そのものを取得した人が、他の相続人に対し債務を負担するような遺産分割の方法をいう。
債権・債務の関係:代償分割の方法で話し合いがまとまると相続人の間に債権債務の関係が生じます。つまり代償債務を負う相続人と代償債権を得る相続人が生じることになる。
相続税の課税関係の中の問題として解決できる代物弁済と同様の課税関係が生じ、弁済する債務の額に相当する値段で、その財産を売却したと同じ経済的効果があることから、譲渡所得の課税関係が生じる。
@代償財産の交付を受けた者
相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
A代償財産を交付した者
相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額
●遺産分割のやり方 原則自由で相続人の自由に任せられる
@現物分割:相続財産を相続人間で配分
A換価分割:各種の財産を分配した上で差額を金銭で決済
B代償分割:相続財産を特定の者に相続させる※上記参照