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仮例 最愛のご主人に先立たれてすでに10年が経つA子さんは最近は寄る年波には逆らえないのかとみに体力が弱り、一人暮しにも気力がなくなり東京にいる一人娘夫婦に故里に帰ってきてほしいとの強い願いを抱いてはいるものの、娘夫婦も子育ての真っ最中でなかなかA子さんの願いもしばらくはかないそうにありません。
昨年、持病の腰痛が悪化して骨粗しょう症と病院で診断され、大きな手術を受けた後数ヶ月にわたりリハビリを兼ねた入院生活を送ったこともありました。そのとき娘も急遽病院まで駆けつけてはくれたものの東京でキャリア・ウーマンとしてバリバリの娘さん、よほど忙しかったのか2日ほどですぐ東京へ帰ってしまいました。そのとき一生懸命になってA子さんを看護してくれたのが甥にあたるB男だつたのです。実の娘は遠隔地にいるとはいえ、自分のことにかまけてくれず、それに比べて甥は一生懸命になって面倒をみてくれる。そう強く感じ始めたA子さんは徐々に実の娘のことを疎んじるようになり始めB男の勧めもあって遺言の書き方などをB男から詳しく教えてもらうことになりました。A子さんはB男の懇切丁寧なアドバイスもあって遺言の内容を完成させ、先日病院のほうに公証人さんに出張してもらい公正証書による遺言を行いました。証人、立会人と公正証書遺言の必要要件を満たした上、遺言執行者をB男とし、かつ全財産をB男にやり、唯一の相続人である娘は相続から廃除すると言った内容のものでした。そしてA子さんはこの遺言を残した後、ひっそりと息を引き取りました。
後日、この相続の内容を知った娘のC子さんが怒りと悲しみに包まれたのは当然のこととして、今現在、弁護士さんを立ててB男と訴訟中であることはいうまでもありません。
●遺言 遺言は人の最終意思の表示であり、死後に効力を生ずるものであるから、意思内容の確定を厳かにし、他者による改変や捏造を防ぐため厳格な要式行為とされる.
【遺言の方式】
―――自筆証書遺言
普通方式 ―――公正証書遺言
―――秘密証書遺言
――――危急時遺言 ――― 一般危急時遺言
特別方式――― 難船危急時遺言
――――隔絶地遺言 ――― 一般隔絶地遺言
――― 船舶隔絶地遺言
【遺言事項】財産上だけでなく身分上のものにも及び,民法では次の10種類の事項に限って許される
1. 認知 6. 遺産分割方法
2. 遺贈 7. 遺贈についての遺留分減殺方法
3. 寄付行為 8. 遺言執行者の指定又はその指定の委託
4. 後見人の指定・後見監督人の指定 9. 遺産分割の禁止
5. 相続分の指定 10. 相続人の廃除,その取り消し
[不動産登記法から見た遺言による相続登記の問題点]
(例)甲が下記のような遺言をして死亡した場合,どのような登記手続をとるべきか。
1. 共同相続人の1人である乙に「A不動産を相続させる」
2. 共同相続人1人である乙に「A不動産を遺贈する」
3. 相続人ではない丁に「A不動産を相続させる」
4. 相続人ではない丁に「A不動産を遺贈する」
5.共同相続人全員である乙及び丙にたいして,「全財産を乙3分の2,丙3分の1の割合で遺贈する」
6. 共同相続人が乙及び丙である場合に,「全財産を乙3分の1,丙3分の1,丁3分の1の割合で遺贈する」
7. 共同相続人の1人である乙に「全財産を相続させる」
相続か遺贈か
(1)遺言がされた場合,登記原因を「相続」とするか「遺贈」とするかは,遺言書の文言に従うものと解してよい。したがって,1の場合の原因は「相続」であり,2.4の場合の原因は「遺贈」である。
(2)ただし,3の場合は「相続させる」との文言を用いているが,権利を受ける丁は相続人ではないので,「相続」との登記原因を用いることはできず,「遺贈」とすべきである。
(3)5の場合は、「遺贈」との文言を用いているが,共同相続人全員に全財産を包括遺贈している例であり,この場合は相続分の指定がされたのと同様であるから,「相続」を登記原因とする。(昭38.11.20民甲3119号)これに対して,6は相続人全員及び相続人ではない者に包括遺贈している例であるので「相続」との原因を用いることはできず「遺贈」とすべきである(昭58.3.2民三1310号)
(4)7の場合も「相続」を原因として乙への所有権移転登記をすることができる。問題となるのは,すべての財産を乙が取得すると,他に遺留分権利者がいる場合,その者の遺留分を侵害する点である。しかし,遺留分を侵害する遺贈や相続分の指定・遺産分割の指定の方法の指定も無効ではなく、遺留分減殺請求の対象となるだけであって、相続登記をすることの妨げにはならない。
遺贈を原因とする所有権移転登記
遺贈を原因とする所有権移転登記の申請手続きは,遺言執行者がいる場合といない場合とで異なる。
遺贈を原因とする所有権移転登記において、登記義務を履行すべきであるのは遺言者である。しかし、遺贈の効力が生じるのは、遺言者の死亡のときであり、遺言者は登記義務を現実には履行することができない。そこで、遺言執行者がいれば、その者が遺贈の登記義務を履行し、遺言執行者がいなければ、遺言者の義務を包括的に承継している相続人が登記義務を履行することになる。