最近資産より負債を残して死亡する人が多いせいか、うちの事務所の依頼事件でも、相続放棄の申述が結構あります。原則は、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出しなければなりません。3ヶ月は結構短いですよ!
民法 第915条〔承認・放棄の期間〕
1 相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但し、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によつて、家庭裁判所において、これを伸長することができる。
2 相続人は、承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
民法 第916条
相続人が承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があつたことを知つた時から、これを起算する。
民法 第938条〔放棄の方式〕
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
民法 第939条〔放棄の効力〕
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす
。民法 第940条〔相続放棄者の管理継続義務〕
1 相続の放棄をした者は、その放棄によつて相続人となつた者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意を以て、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条〔受任者の報告義務〕、第646条〔受任者の受取物等の引渡義務〕、第650条第1項、第2項〔受任者の費用償還請求権等〕及び第918条第2項、第3項〔家庭裁判所による管理人の選任等〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。
東京高等裁判所 決定 平成12年12月7日
抗告人は、被相続人が死亡した時点で、その死亡の事実及び抗告人が相続人の相続人であることを知ったが、被相続人の本件遺言があるため、自らは被相続人の積極及び消極の財産を全く承継することがないと信じたものであるところ、本件遺言の内容、本件遺言執行者である大和銀行の抗告人らに対する報告内容等に照らし、抗告人がこのように信じたことについては相当な理由があったものというべきである。
ところで、
民法915条1項本文が相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて3か月の熟慮期間を許与しているのは、相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合には、通常その各事実を知った時から3か月以内に調査すること等によって、相続すべき積極及び消極の財産の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがって単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいている。ところが、抗告人は、自らは被相続人の積極及び消極の財産を全く承継することがないと信じ、かつ、このように信じたことについては相当な理由があったのであるから、抗告人において被相続人の相続開始後所定の熟慮期間内に単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択することはおよそ期待できなかったものであり、被相続人死亡の事実を知ったことによっては、未だ自己のために相続があったことを知ったものとはいえないというべきである。
そうすると、抗告人が相続開始時において本件債務等の相続財産が存在することを知っていたとしても、抗告人のした本件申述をもって直ちに同熟慮期間を経過した不適法なものとすることは相当でないといわざるを得ない。
なお、抗告人は、後に、相続財産の一部の物件について遺産分割協議書を作成しているが、これは、本件遺言において当然に一郎へ相続させることとすべき不動産の表示が脱落していたため、本件遺言の趣旨に沿ってこれを一郎に相続させるためにしたものであり、抗告人において自らが相続し得ることを前提に、一郎に相続させる趣旨で遺産分割協議書の作成をしたものではないと認められるから、これをもって単純承認をしたものとみなすことは相当でない。
そして、抗告人は、平成12年6月17日に至って住宅金融公庫から催告書の送付を受けて初めて、本件債務を相続すべき立場にあることを知ったものであり、上記認定の経過に照らすと、それ以前にそのことを知らなかったことについては相当な理由かあるものというべきてあるから、同日から所定の熟慮期間内にされた本件申述は適法なものである。
よって、本件申述を熟慮期間を経過した不適法なものであるとして却下した原審判は不当であり、本件抗告は理由があるから、家事審判規則19条1項により原審判を取り消し、本件申述の受理手続のため、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
弁護士中山知行