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父母を貸主とし子を借主として成立した「返還時期の定めがない」土地の使用貸借であって、「使用の目的」は建物を所有して会社の経営をなし併せて右経営から生ずる収益により老父母を扶養する等の内容のものである場合において、借主はさしたる理由もなしに老父母に対する扶養をやめ兄弟とも往来を断ち使用貸借当事者間における信頼関係は地をはうに至った等の事実関係があるときは、597条2項但書を類推適用して貸主は借主に対し使用貸借を解約できるとした最高裁の判決です。使用貸借の解除については、まず、「返還時期の定め」の有無、次に、「使用収益目的」の有無を判断します。両方ないときは貸主はいつでも返還請求できます。

第597条〔借用物の返還時期〕

1 借主は契約に定めたる時期に於て借用物の返還を為すことを要す

2 当事者か返還の時期を定めさりしときは借主は契約に定めたる目的に従ひ使用及ひ収益を終はりたる時に於て返還を為すことを要す

但其以前と雖も使用及ひ収益を為すに足るへき期間を経過したるときは貸主は直ちに返還を請求することを得

3 当事者か返還の時期又は使用及ひ収益の目的を定めさりしときは貸主は何時にても返還を請求することを得

昭和42年11月24日 最高裁第二小法廷 判決

原判決の適法に確定した事実関係、ことに、本件土地の使用貸借は昭和26年頃上告人靖夫の父平一郎及び母被上告人テルの間に黙示的に成立したもので返還時期の定めがないこと、本件使用貸借の目的の一部は上告人靖夫が本件土地上に建物を所有して居住し、かつ、上告人靖夫を代表取締役とする上告会社の経営をなすことにあり、上告人靖夫は右目的に従い、爾来本件土地を使用中であること、しかし、本件土地の使用貸借の目的は、上告人靖夫に本件土地使用による利益を与えることに尽きるものではなく、一方において、上告人靖夫が他の兄弟と協力して上告会社を主宰して父業を継承し、その経営によつて生じた収益から老年に達した父平一郎、母被上告人テルを扶養し、なお余力があれば経済的自活能力なき兄弟をもその恩恵に浴せしめることを眼目としていたものであること、ところが、昭和31,2年頃平一郎が退隠し、上告人靖夫が名実共に父業を継承し采配を振ることとなつた頃から兄弟間にあつれきが生じ、上告人靖夫は、原判決判示のいきさつで、さしたる理由もなく老父母に対する扶養を廃し、被上告人ら兄弟(妹)とも往来を断ち、3,4年に亘りしかるべき第三者も介入してなされた和解の努力もすべて徒労に終つて、相互に仇敵のごとく対立する状態となり、使用貸借契約当事者間における信頼関係は地をはうにいたり、本件使用貸借の貸主は借主たる上告人靖夫並びに上告会社に本件土地を無償使用させておく理由がなくなつてしまつたこと等の事実関係のもとにおいては、民法第597条第2項但書の規定を類推し、使用貸主は使用借主に対し、使用貸借を解約することができるとする原判決の判断を、正当として是認することができる。

 

弁護士中山知行