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「公示による意思表示」に関し相手方の住所を知らないことにつき過失がないとされた事例です。調査方法として取った行為は、不動産登記簿上の住所に郵便物を送ったが行先不明で返送され、住所を現地で調査したが判明せず、当該区役所の住民票も調べたが記載なく、隣家の者にも尋ねたが、住所を知ることができなかったということです。

現行法では、公示送達された訴状において、解除等の意思表示ができますが、この判決当時は、催告や解除の意思表示は、民法97条の2の「公示による意思表示」をする必要がありました。その後、訴状を提出し、訴状も公示送達をするという手順でした。

民法第97条の2〔公示による意思表示〕

1 意思表示は表意者か相手方を知ること能はす又は其所在を知ること能はさるときは公示の方法に依りて之を為すことを得

2 前項の公示は公示送達に関する民事訴訟法の規定に従ひ裁判所の掲示場に掲示し且其掲示ありたることを官報及ひ新聞紙に少くも1回掲載して之を為す

但裁判所相当と認むるときは官報及ひ新聞紙の掲載に代へ市役所、町村役場又は之に準すへき施設の掲示場に掲示すへきことを命することを得

3 公示に依る意思表示は最後に官報若くは新聞紙に掲載したる日又は其掲載に代はる掲示を始めたる日より2週間を経過したる時に相手方に到達したるものと看做す但表意者か相手方を知らす又は其所在を知らさるに付き過失ありたるときは到達の効力を生せす

4 公示に関する手続は相手方を知ること能はさる場合に於ては表意者の住所地、相手方の所在を知ること能はさる場合に於ては相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属す

5 裁判所は表意者をして公示に関する費用を予納せしむることを要す

 

東京地方裁判所 判決 昭和43年7月1日

本件土地を含む宅地がもと小国の所有であったこと、渥美が賃借し本件建物を所有していたこと、原告が昭和26年3月24日右借地権および建物を買受け、建物は即日登記をなし、借地権については小国の承諾を経たこと、被告が右土地を昭和35年3月29日競売により取得したこと、被告が昭和36年10月23日付催告および条件付解除の通知をなしこれが同年11月9日公示送達により送達されたこと、被告が原告を相手方として同年12月4日東京地方裁判所に家屋収去土地明渡ならびに損害賠償請求訴訟を提起し、昭和37年3月23日被告勝訴判決があり、同年4月11日これが確定したこと、右訴訟において被告が公示送達を申立てたこと、被告が昭和37年9月24日本件建物につき建物収去土地明渡の強制執行に行ったこと、本件建物の1階に中央清掃株式会社、2階に牛込が居住占有しているため執行不能となったこと、昭和42年8月10日その執行を完了したこと、右判決に基づき損害金債権6140円の競売をなして同金員を取得したことは、当事者間に争いがない。

原告は「被告が右判決を詐取した。」と主張するが、これを認めるべき適切な証拠がない。

被告が本件土地を取得した当初被告は、中央清掃株式会社が本件建物を所有し本件土地の賃借人であると考えていたこと、昭和36年10月12日登記簿を調査した結果原告が所有者であり借地人であることがわかったこと、被告が同日原告の登記簿上の住所にあてて賃料請求書を郵送したが行先不明で返送されたこと、同月13日被告が原告の登記上の住所について調査したが判明せず、台東区役所の住民票も調べたがこれにも記載がなかったこと、本件建物の隣家に住み前所有者の渥美について尋ねたが原告の住所を知らなかったこと、被告はついに原告の住所を知ることができなかったので、同年10月23日賃料の催告および条件付解除の「意思表示の公示送達」の申立をなしこれが同年11月9日送達されたこと、同年12月4日原告を相手方として東京地方裁判所に訴訟を提起し、更に民生委員に問合せたが原告の住所が判明しなかったので公示送達を申立て、昭和37年3月23日勝訴判決を受けたことが認められる。

右認定によれば、被告は原告の住所を知っておらず、また、種々さがしたが判明できなかったのであり、所在の調査に過失があったともいえない。

したがって、賃料不払により昭和36年11月14日賃貸借は解除された。のみならず、右判決が住所を偽って申立てられて効力がないということもできない。

以上のとおりであるから、本件土地の賃貸借は解除により終了している。

また右判決に基づく強制執行により本件土地は被告に明渡されたから、仮りに原告が本件土地に借地権を有しているとしても、本件土地の返還を求めることはできず、したがって同土地の使用は不可能であるから、結局借地権を被告に有効に主張することができないことゝなる。

また、被告は本件土地の明渡を受け原告の借地権の負担のない土地として自由に処分できるわけであるから道路公団から補償を受けたとしてもこれが原告の権利を侵害することにもならない。

弁護士中山知行