「短期賃貸借の存在により抵当不動産の売却価額が下落すれば
民法395条但し書きの「損害」ありといえ、賃貸借の内容が通常より不利益なものである必要はない。解除請求の対象である短期賃貸借の期間が競売手続開始後に終了しても、その解除を請求することができる」とした、最高裁判決です。短期賃貸借の制度は、もう執行妨害の手段でしかなく、歴史的役割を終わっていますので、民法395条は、早急に削除されるべきだと思います。
第395条〔短期賃借権の保護〕
第602条に定めたる期間を超えさる賃貸借は抵当権の登記後に登記したるものと雖も之を以て抵当権者に対抗することを得但其賃貸借か抵当権者に損害を及ほすときは裁判所は抵当権者の請求に因り其解除を命することを得
平成8年9月13日 最高裁第二小法廷 判決
民法395条ただし書による短期賃貸借の解除は、抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押えが不能になるなどの理由によって抵当権者が直接的に損害を被る場合、又は、当該短期賃貸借の内容(賃料の額又は前払の有無、敷金の有無、その額等)が通常の短期賃貸借の内容と比較すると抵当不動産の買受人にとって不利益なものであるため、抵当不動産の価額の減少を招き、これにより抵当権者が間接的に損害を被る場合に認められるのであって、短期賃借権の設定それ自体により抵当不動産の価額が低下することから直ちに抵当権者の賃貸借解除請求が許されるものではない。
被上告人は、本件抵当権に基づく物上代位により本件短期賃貸借の賃料債権について差押命令の申立てをしたが、賃料の支払を受けることができなかったから、本件短期賃貸借は、抵当権者に直接的に損害を及ぼす。
本件短期賃貸借の内容は、通常よりも買受人に不利益であり、本件短期賃貸借が存在しないとした場合の本件土地建物の価額は被上告人の有する被担保債権額を下回る1億5400万円であって、本件短期賃貸借が存在することにより本件建物の価値は更に低下するから、本件短期賃貸借は、抵当権者に間接的にも損害を及ぼす。
しかしながら、民法395条ただし書にいう抵当権者に損害を及ぼすときとは、原則として、抵当権者からの解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において、抵当不動産の競売による売却価額が同条本文の短期賃貸借の存在により下落し、これに伴い抵当権者が履行遅滞の状態にある被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するときをいうのであって、右賃貸借の内容が賃料低廉、賃料前払、敷金高額等の事由により通常よりも買受人に不利益なものである場合又は抵当権者が物上代位により賃料を被担保債権の弁済に充てることができない場合に限るものではないというべきである。
けだし、短期賃貸借の存在により抵当権者が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少する場合には、右賃貸借の内容が通常よりも買受人に不利益であるか否かを問わず、原則としてこれを解除すべきものとするのが民法395条の趣旨であると考えられ、また、短期賃貸借が存在しない場合には抵当権者が物上代位により被担保債権の弁済に充てるべき賃料がもともと存在しないのであるから、抵当権者は、短期賃貸借の賃料を被担保債権の弁済に充てることができないとしても、右賃貸借が存在しない場合よりも不利益な地位に置かれるものではないからである。
なお、解除請求の対象である短期賃貸借の期間が抵当権の実行としての競売による差押えの効力が生じた後に満了したため、その更新を抵当権者に対抗することができなくなった場合であっても、短期賃貸借解除請求訴訟の事実審口頭弁論終結時において右賃貸借の存在により抵当不動産の競売における売却価額が下落し、これに伴い抵当権者が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するものである限りは、抵当権設定者による抵当不動産の利用を合理的な限度においてのみ許容するという民法395条の趣旨にかんがみ、裁判所は、右賃貸借の解除を命じるべきである。
そして、このことは、差押えの効力発生後の右賃貸借の期間満了が右訴訟の事実審口頭弁論終結の前後いずれに生じたかを問わず、当てはまるものというべきである。
以上に基づき本件について検討するに、原審の適法に確定した事実関係によれば、原審口頭弁論終結時において本件短期賃貸借の存在により本件土地建物の競売における売却価額が下落し、これに伴い抵当権者である被上告人が被担保債権の弁済として受ける配当等の額が減少するということができるから、本件短期賃貸借は、抵当権者に損害を及ぼすものというべきである。
また、本件短期賃貸借は、本件建物について差押えの効力が生じた後の平成7年6月11日(本件上告の提起後であり、原裁判所から当裁判所への事件送付前である。)に期間が満了したため、その更新を抵当権者である被上告人に対抗することができなくなったものであるが、右の事情は、本件解除請求を妨げる事由に当たらないものというべきである。
以上によれば、被上告人の本件短期賃貸借解除請求を認容すべきものとした原判決の結論は正当である。
弁護士中山知行