「不動産取引仲介業者に対する不動産売買仲介の依頼が合意解除された後、当事者間の直接取引により右不動産を目的とする売買契約が成立した場合においても、右業者の仲介と当該売買契約成立との間に因果関係がなく、右解除も故意に右業者を除外する目的でなされたものでなく、かつ、右依頼に関して報酬金の特約もなかったときに、右業者が報酬金を請求できるという一般取引観念が存するものとは認められない」とした最高裁の判例です。
もし、仲介手数料の支払を免れるために、売買当事者が故意に業者を除外すれば、民法130条によって、仲介業者は、約定報酬を請求できます。本件は、そのようなケースではなく、直接取引の成立は、仲介行為との因果関係がないことが前提となっています。委任契約は無報酬が原則なのです。
第648条〔受任者の報酬請求権〕
1 受任者は特約あるに非されは委任者に対して報酬を請求することを得す
2 受任者か報酬を受くへき場合に於ては委任履行の後に非されは之を請求することを得す
但期間を以て報酬を定めたるときは第624条第2項〔雇用の報酬の後払い〕
の規定を準用す
3 委任か受任者の責に帰すへからさる事由に因り其履行の半途に於て終了したるときは受任者は其既に為したる履行の割合に応して報酬を請求することを得
昭和39年7月16日 最高裁第一小法廷 判決
原判決は本件売買契約が被上告人らの上告人らに対する仲介依頼の正当に解除された後、直接取引により成立したものであることを認定し、上告人らに於て右売買の端緒を与えたとしても、その程度の斡旋行為ではまだ本人間の直接取引による本件売買契約成立について因果関係が存するとはいえない旨を判示しているのであつて、その認定する右事実関係の下に於ては右判断は正当であり、原判決には所論違法の点は認められない。
原判決は本件仲介依頼の解除は被上告人らに於て故意に上告人らを除外する目的でなされたものでなく、また前記に説示したような経緯によつて判示の如き当事者間直接の売買契約が成立し、右仲介依頼に関しては報酬金についての特約がなかつた旨を認定しており、その認定は原判決挙示の証拠により首肯できないことはない。
そして、かかる事実関係の下においては仲介人たる上告人らが報酬金を請求しうる社会の一般取引観念を認め得ないとした原判決の判断は、肯認できないことはなく、所論経験則違反の違法は認められず、従つて所論信義則違反の主張を容認しなかつたからといつて、原判決には理由不備又は理由そごの違法はない。
弁護士中山知行