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遺言者が生きている間は、遺言無効確認の訴えは、不適法で却下すべきものとした最高裁判決です。

 第985条〔遺言の効力発生時期〕

1遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

2遺言に停止条件を附した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就

したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

 昭和31年10月4日 最高裁第一小法廷 判決

 確認の訴は原則として法律関係の存否を目的とするものに限り許されるのであつて、事実関係については訴訟法上特に認められた「法律関係ヲ証スル書面ノ真否ヲ確定スル為ニ」する場合の外はこれを提起することはできない。

 それは法令を適用することによつて解決し得べき法律上の争訟について裁判をなし以て法の権威を維持しようとする司法の本質に由来する。

 すなわち法律関係の存否は法令を適用することによつて判断し得るところであるに反し、事実関係の存否は経験則の適用によつて確定されるのであり、経験則の確認、これが正当な適用というようなことは司法本来の使命とは直接的関係はなく法令適用の前提問題たるに過ぎないからである。

 そしてまたその法律関係についてもただ現在時における存否のみがこの訴の対象として許されるのであつて、ある過去の時点におけるその存否、若くは将来時におけるその成否というようなことは確認の対象とすることは許されない。

 民事訴訟法は現在の法律関係の確認を許すだけでこの種の訴を認めた立法目的を達成するに必要にして十分であるとしたものと解せられる。

 けだし、過去の法律関係の存否は、たとえそれが現在の法律関係の存否に影響を来たすべき場合においても、それは単に前提問題としての意義を有するに止まり、当該現在の法律関係の存否につき確認の訴を認める外、かかる過去の法律関係の存否についてまでこの種の訴を認める必要はないのであり、また将来の法律関係なるものは法律関係としては現在せず従つてこれに関して法律上の争訟はあり得ないのであつて、仮りにある法律関係が将来成立するか否かについて現に法律上疑問があり将来争訟の起り得る可能性があるような場合においても、かかる争訟の発生は常に必ずしも確実ではなく、しかも争訟発生前予めこれに備えて未発生の法律関係に関して抽象的に法律問題を解決するというが如き意味で確認の訴を認容すべきいわれはなく、むしろ現実に争訟の発生するを待つて現在の法律関係の存否につき確認の訴を提起し得るものとすれば足ると解せられるからである。

 本件において、遺言の無効確認を求める請求の原因の要旨は、被上告人は昭和26年11月21日東京法務局所属公証人青山春斉作成第186914号公正証書により本件係争建物を上告人に遺贈する旨の遺言をしたが、昭和27年9月24日同公証人作成第202426号公正証書により前記遺贈を取消したので、該遺言の無効確認を求めるというのである。

 そしてその請求の趣旨は、これを字義通りに理解するならば遺贈なる法律行為の無効なることの確認を求めるものの如くであるが、法律行為はその法律効果として発生する法律関係に対しては法律要件を構成する前提事実に外ならないのであつて法律関係そのものではない。

 ある法律行為が有効であるか無効であるかということは、もとより法律判断を包含してはいるけれども、かかる事項を確認の訴の対象とすることの許されないことは前段説示するところにより明瞭であろう。

 またその訴旨を本件遺贈による法律効果としての法律関係の不存在の確認を訴求するものと理解しても、なおこの訴は不適法たるを免れない。

 元来遺贈は死因行為であり遺言者の死亡によりはじめてその効果を発生するものであつて、その生前においては何等法律関係を発生せしめることはない。

 それは遺言が人の最終意思行為であることの本質にも相応するものであり、遺言者は何時にても既になした遺言を任意取消し得るのである。

従つて一旦遺贈がなされたとしても、遺言者の生存中は受遺者においては何等の権利をも取得しない。

すなわちこの場合受遺者は将来遺贈の目的物たる権利を取得することの期待権すら持つてはいないのである。それ故本件確認の訴は現在の法律関係の存否をその対象とするものではなく、将来被上告人が死亡した場合において発生するか否かが問題となり得る本件遺贈に基ずく法律関係の不存在の確定を求めるに帰着する。

しかし現在においていまだ発生していない法律関係のある将来時における不成立ないし不存在の確認を求めるというような訴が、訴訟上許されないものであることは前説示のとおりであつて、本件確認の訴はその主張するところ自体において不適法として却下せざるを得ない。

弁護士中山知行