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民法716条により、注文者は、請負人が第三者に加えた損害を賠償する必要がないのが原則です。この規定がないと、民法715条の使用者責任の規定が注文者に適用されてしまう可能性があります。ただし、注文者は、完全に免責されているのではなく、注文又は指図につき注文者に過失がある時は、注文者が第三者に対し責任を負うことになります。

今日取り上げた最高裁判例は、この注文者の過失が認められたものです。

 第716条〔注文者の責任〕

注文者は請負人が其仕事に付き第三者に加へたる損害を賠償する責に任ぜず

但注文又は指図に付き注文者に過失ありたるときは此限に在らず

 昭和43年12月24日 最高裁第三小法廷 判決

 上告人は、昭和38年5月初、小学校の旧校舎の払下げを受けて蜜柑撰果場を新築しようと企図し、訴外落合にこれを請け負わせて工事にとりかからせたが、早生蜜柑の出荷が始つたために工事を急がせすぎ、農地である敷地について転用許可手続をせず、かつ、知事宛の建築確認申請手続をとらずに工事に着工させたために、唐津土木出張所から即時工事を中止すべきことを命ぜられるとともに、右各申請手続をし、同時に建物の補強工作を完備するよう強く勧告された旨、しかして、上告人らはこの指示に基づいて右各申請手続を了し、補強工事をすることにしたうえで工事を続行する段取りとなつたが、上告人は、蜜柑の収穫期がおし迫つた折から、右落合に、前記の補強工作を全然させることなく、また、所定の中間検査をも受けないままで瓦葺作業に取り掛らせたため、西側屋根上に積み上げられた瓦約2000枚の重みで右建築中の建物が倒壊するに至つた旨の原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができる。

 右事実関係のもとにおいては、上告人としては、少なくとも右建築中止命令以後においては、倒壊、損害防止上相当の補強工作をすべきことを十分認識していたものというべきであるから、補強工事をせずしてかかる作業を命ずることのないよう、また、もし右請負人において補強工作を施行せずして右工事を続行する場合には、時期を失せず工事を中止させる等の措置を執るべき注意義務があるものというべきである。

 しかるに、これらの措置を講じないて敢えて右工事の続行を黙過した上告人は、注文者として注文または指図について過失があつたものといわなければならない。

 したがつて、これと同旨の見解に立ち、上告人に対し民法716条但書の注文者の責任を肯定した原審の判断は相当であり、原判決に所論の違法はない。

弁護士中山知行