今日の判例は、土地の賃借権の取得時効の要件について述べたものです。「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているとき」、当初の土地の賃貸借契約が何らかの形で無効であったとしても、賃借権の取得時効がありうるのです。この取得時効の要件は重要論点ですよ。
第163条《所有権以外の財産権の取得時効》
所有権以外の財産権を自己の為めにする意思を以て平穏且公然に行使する者は前条の区別に従ひ20年又は10年の後其権利を取得す
昭和45年12月15日 最高裁第三小法廷 判決
他人の「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思に基づくものであることが客観的に表現されているとき」には、民法163条に従い、土地の賃借権を時効により取得することができるものであることは、すでに、当裁判所の判例とするところである。
これを本件についてみるに、上告人らが原審において主張するところによれば、上告人ら先代亡Kは、大正11年8月15日、当時の被上告人の住職Yとの間に、建物所有を目的とし、賃料を原判示(A)地および(B)地については月額1円70銭(のちに2円に改定)、(C)地については年額5円と定める賃貸借契約を締結し、爾来これに基づき平穏、公然に本件各土地を占有して10年ないし20年を経過し、その間被上告人に約定の右賃料の支払を継続していたというのであり、この主張のような事実関係は証拠上も窺うに難くないのであつて、右事実関係が認められるならば、前示の賃借権の時効取得の要件において欠けるところはないものと解される。
寺院境内地を目的とする右賃貸借契約が、当時の法令に従い法定の例外事由にあたるものとして地方長官の許可を得たものでないため、無効とされることは原判示のとおりであるが、このような寺院境内地の処分・賃貸等の法令上の制限が、寺院をして健全な宗教活動を営ましめるため、その基礎たる資産の保護をはかりその運営を監督するという趣旨に出たものとして、これに、公益的目的を認めるべきものであるとしても、このような公益性は、平穏、公然に寺院境内地の用益を継続しえた者の事実的支配を保護すべき要請に比して、特に強く尊重されなければならないものと考えるべきではない。
したがつて、右のような事由により無効とされる賃貸借契約に基づいて土地の占有が開始された本件のような場合にあつても、その占有が前示の要件をみたすものであるかぎり、有効な賃貸借契約に基づく場合と同様の賃借権の時効取得が可能なものと解すべきである。
弁護士中山知行