民法の基礎
今日取り上げるのは共有物分割訴訟です。
共有物分割訴訟は、「形式的形成訴訟」と言われています。裁判所は、紛争の存在を認める限り,何らかの具体的内容をもつ判断を下す必要があり,原告の主張は法律上認められないというだけの請求棄却の余地はありません。形式的形成訴訟では,裁判所は、原告の申立ての範囲に拘束されず,不利益変更の禁止の原則も適用されないと解釈されています。民法の条文上は、現物分割が原則であり、現物分割が適当でないときは、形式競売をして価格分割を命じなければならないように見えますが、最近の判例は、この最高裁判決のように、全面的価格賠償の方法や、もっと柔軟な分割方法を認める判決が増えてきています。
第256条〔共有物の分割請求〕
各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得但五年ヲ超エサル期間内分割ヲ為ササル契約ヲ為スコトヲ妨ケス
此契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ス
第258条〔裁判上の分割請求〕
分割ハ共有者ノ協議調ハサルトキハ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ又ハ分割ニ因リテ著シク其価格ヲ損スル虞アルトキハ裁判所ハ其競売ヲ命スルコトヲ得
平成8年10月31日 最高裁第一小法廷 判決
1 民法258条2項は、共有物分割の方法として、現物分割を原則としつつも、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損じるおそれがあるときは、競売による分割をすることができる旨を規定している。
ところで、この裁判所による共有物の分割は、民事訴訟上の訴えの手続により審理判断するものとされているが、その本質は非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実状に合った妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる。
したがって、右の規定は、すべての場合にその分割方法を現物分割又は競売による分割のみに限定し、他の分割方法を一切否定した趣旨のものとは解されない。
そうすると、共有物分割の申立てを受けた裁判所としては、現物分割をするに当たって、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることができるのみならず、当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。
2 これを本件についてみるに、前記一の事実関係等によれば、本件不動産は、病院、その附属施設及びこれらの敷地として一体的に病院の運営に供されているのであるから、これらを切り離して現物分割をすれば病院運営が困難になることも予想される。そして、被上告人が競売による分割を希望しているのに対し、上告人らは、本件不動産を競売に付することなく、自らがこれを取得する全面的価格賠償の方法による分割を希望しているところ、本件不動産が従来から一体として上告人ら及びその先代による病院の運営に供されており、同病院が救急病院として地域社会に貢献していること、被上告人が本件不動産の持分を取得した経緯、その持分の割合等の事情を考慮すると、本件不動産を上告人らの取得とすることが相当でないとはいえないし、上告人らの支払能力のいかんによっては、本件不動産の適正な評価額に従って被上告人にその持分の価格を取得させることとしても、共有者間の実質的公平を害しないものと考えられる。
弁護士中山知行